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アーバニスト・イン・レジデンスとは。ベルリン行きを前に、「旅」と「都市」について思うこと。

2019年12月に、京都の左京区にある一軒家に引越してきた。築年数は約70年程度、ぎりぎり「町家」と呼べるのだろうか。京都の文脈でいうと全然古くはない物件だけれど、戦後の建物なのに京間できちんと造られている、質の良い家だ。この家を夫と2人で改修しつつ住みはじめてから、早いもので6ヶ月目に突入した。

アーバニスト・イン・レジデンスとは

セルフリノベができる物件を探す目的でアメリカから日本に帰国してから、家を持った暁には、住む以外の機能も、なにかつけたいと思っていた。京都を選んだのは、小規模で隠れ家的なギャラリーや多目的スペースを、個人で家をひらきながらやっているところが多い、という勝手なイメージもあったかもしれない。今回私たちがやりたかったのは、アーティストインレジデンスならぬ、"アーバニスト"インレジデンスだった。

私は普段、「都市」を専門領域に編集やリサーチ活動をしていて、日本に限らず、ヨーロッパやアメリカなどに定期的に移動しながらプロジェクトを行っている。日本にひとつ、拠点を持ちつつも、そこに縛られず、かつ、世界中から知り合いや面白い人たちが集まってこれるような場所が欲しかった。

そんな想いで生まれたのが、「Bridge To Kyoto」だ。Bridge to Kyotoは、建築や街づくりに関わるアーバニストや、都市や公共空間をテーマに活動を行うアーティストが1〜6ヶ月の期間で滞在して活動できる家となっている。100平米ほどの小さな家だけれど、ゲストルームと1階の共有スペースがあって、イベントやワークショップ、展示会などの開催も可能と大家さんの許可を得ているので、実験的な活動をしたい若手や、日本とまだあまりコネクションのない海外の実践者に、気軽に使ってもらいたいなと思った。

決して収益目的ではなく、本職の仕事をしつつ、手の届く範囲で運営できる程度の家びらき・住みびらきだ。将来、アメリカなど含めた多拠点居住を考えているので、その場合は「Bridge To Amsterdam」「Bridge to Portland」など、少しずつレーベル感覚でw増やしていけたらなとも思っている。

アーバニストインレジデンス、という考え方のインスピレーションは、私も今年実際に滞在が決まっている、ベルリンのZK/U(Center for Art and Urbanistics)という文化施設だ。

ベルリンを拠点とするアーティスト集団「KUNSTrePUBLIK」が運営しているZK/Uは、「都市」をテーマにした珍しいアートスペースで、ジャンルを越えたアーティスト、研究者、実践者のベルリン滞在を促進するレジデンスプログラムも行っている。

ZK/Uに集まる実践者の手によって、今まで多くのプロジェクトが生まれてきた。都市と市民を繋げるためのツールを集めてアーカイブ化し、共有するCityToolBoxや、道路などの都市空間に家具を置く実験を行うHacking Urban Furniture、今までアートに無縁であった組織や活動にアーティストを送り込むArtist-Displacementなど、都市好きにはたまらないコンテンツが盛り沢山なのである。

ZK/Uほどではもちろんないにせよ、最近流行りのアートホテルでもアートレジデンスでもなく、アーバニストのための拠点を、小規模ながらつくりたい。

宿でもアート施設でもなく、あくまでも家びらきという、自分サイズの挑戦。『しょぼい起業で生きていく』という本があるけれど、ノーリスクで、自分のできる範囲で緩くやりたいことを始めるのって、自分で言うのもなんだけれど、ミレニアル世代らしい判断だなと思う。現に、コロナの影響で多くのレジデンス施設やアートスペースが打撃を受けているのを見ると、あくまでも自分の住居であり、収入も一切前提としていないこの場所は、強いなと思う。

アーバニストの旅は、今後どう変わっていくのか

とはいえ、そんな想いで今年初頭にはじめた「Bridge To」も、コロナの影響を少なからず受けた。

4月に来日予定だったフランス人のリサーチャー、5月に来日予定だったニューヨークのアーティスト、6月に開催予定だったイラストレーターの滞在制作など、押し並べて中止。現在は、ちょうどよく連絡をくれた日本在住のカナダ人シェフに滞在してもらっているけれど、当初やりたかった活動は、コロナ収束まで全てペンディング状態だ。

別途運営している、海外の都市情報をまとめたメディア「Traveling Circus of Urbanism」も、そもそも旅ができなければコンテンツを集められない。このサイトは、私のようなアーバニストが世界の各都市に旅に出た時に、参考になるようなスポットや重要人物を紹介しているのだが、そもそも今は、旅に出れない。海外との繋がりを自分のブランディングやアイデンティティのひとつとして活動してきた私には、正直辛い。なので、今は耐え時だ。

一方で、「地上で読む機内誌」PAPERSKYや、「旅に出ない旅行誌」をテーマにしているMOUTAKUSANDA MAGAZINEなど見ていると、フィジカルな意味で旅に出たり移動をしなくても、楽しい発見は、工夫次第でいくつも見つかるようにも思う。コロナ時代の都市を考えるメディアPost-Quarantine UrbanismSpread stories, not virusは、世界の人々の団結を深めて心理的な距離を縮めるのに貢献している。

とはいえ、まだ見知らぬ都市を時差ぼけのままふらふらと歩き回ったり、到着前の空港でソワソワしたりするできる時代が、早く戻ってきて欲しいとは思う。旅がまたできるようになった暁には、マスツーリズムや表面的な海外視察ではなく、移動から思考できる人が、そして、越境体験を通して新しい化学反応的なコラボレーションが起こせる人が、もっと増えれば良いなと思うし、私がここで密かに始めた場づくりも、そんな人々のための機能のひとつになれれば良いなと思う。




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