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ザ・ファーム 法律事務所: こだわりのBBQリブか中華料理のテイクアウトか

アメリカで初めて劇場で見た映画はトムクルーズ主演の「ザ・ファーム 法律事務所」だった。日本から夏季短期留学で行った街の映画館は満員で、通路に座って見た。

映画の内容は多分10%位しかわからず、トムクルーズ演じる弁護士ミッチ・マクディーアがわちゃわちゃ走り回り、ああ「頑固爺さん孫三人」の爺さんをボコっている!と思ったら終わってしまった。

10%しか当時わからなかったこの映画を23年ぶりに見た。そうしたらメデタイことに何を言っているのか全部分かった!良かった!

何しろ舞台はテネシー州メンフィスなので登場人物の一部には南部訛りもあったり(当時はそれさえわかんなかった)、話す内容はマネーロンダリングや税法やらの法律用語・・って初めての映画でこんな複雑なものわかる訳がない!!

しかし今回も見ていてやはりトムクルーズが食べてるものに目がいってしまいましたよ。

ハーバード・ロースクールの貧乏学生だったトムクルーズ‥というかミッチさん。他の有名法律事務所よりも高額なジョブオファーをメンフィスの法律事務所からいただき、就活大成功!

ボストンのボロアパートで、お気に入りの中華レストラン「Wong Boys」のテイクアウトを並べて奥さんとお祝いする。メニューは木須肉、四川ビーフにマンダリンダック(木須肉以外、これらの料理にハッキリした定義がないのでどんな代物かは不明)。

お祝いはいいんだけど、なぜか食卓の横のトイレのドア全開、背景が便器なのが気になる…(貧乏学生でもトイレのドア位閉めたら!)。

そんな生活から一転、メンフィスで素敵な一軒家を手に入れ、会社支給のベンツを乗り回すようになるミッチさん。新居に足を踏み入れた時には、会社から届けられたフルーツバスケットがどーん!と置いてあったり、至れり尽くせり。

「家族的な雰囲気の」この法律事務所、みんないい人そうじゃん!とウキウキのミッチさん。でも実際はこの法律事務所、マフィアの資金をロンダリングするとっても悪徳弁護士の巣窟だったわけですが。

さて、ミッチさんがこのジョブオファーを受け入れる前、メンフィスがどんなところか見においで、と悪徳事務所が夫婦を招待し、ホテルの屋上でパーティーを開く。パーティーで出されるのは、うず高く積まれたコーンブレッドと、バーベキューリブ。

(こちらはお友達の旦那さん特製のバーベキューリブ。骨からお肉がほろっと取れて美味い)

アメリカ人はたいがいバーベキューが好きだ。独立記念日、メモリアルデー、スポーツ観戦と理由をつけてはバーベキューをやる。

野球やフットボールなど実際に足を運んで試合を観に行く時も、車にグリルを積み込み、スタジアムに入る前に、駐車場で肉を焼きビールを飲む、テールゲートパーティーというのをやる。

我が家にも裏庭にガスグリルがどーんと置いてある。そしてたいがいバーベキューは男の料理なので、ガスグリルは旦那のもの(なので実は私はこのグリルの使い方がよくわからない)。

そしてたいがい男の料理は妙にこだわりがある。そしてこのバーベキューにアメリカ人は結構こだわる。

バーベキューというと肉を焼くもんであるが、どの肉のどの部分を使うか、どんな仕込みをするか、使うスパイスやソース、地域によって随分違う。

アメリカで4大バーベキューとして有名なのは、カロライナ(ノースとサウスでまた違う)、テキサス、カンザスシティ、そしてメンフィス。

そう、ミッチさんがかぶりついていたのは、地元メンフィスが全米に誇るポークリブのバーベキューだったのだ。しかもこの事務所お気に入りの「ヒミツのレシピ」で焼かれたものらしい。

メンフィススタイルのバーベキューは主にポークリブとショルダーの2種類を使う。さらに焼き方も肉を焼く前に塩やスパイスをすり込む「ドライ」スタイルと、ソースを塗りながら焼く「ウェット」スタイルの2種類がある。「ウェット」の場合は食べる時もソースを塗る。

そしてミッチさんが就職する悪徳弁護士事務所のお気に入りはソースをたっぷり塗って焼く「ウェット」スタイルのほうであった。

東海岸に住んでいた大昔、地元で開催されたバーベキューコンテストを見に行ったことがある。会場では人間ぐらいあるだろうという大きな豚がまるごと1頭入るスモーカーやグリルが並び、屈強そうなおじちゃん達がモクモクと煙をたてながら肉をスモークしたり焼いたりしてとても暑苦しかった。

(カンザス・シティに住む知り合いによると、休日になると皆が一斉にバーベキューをしすぎて、大気汚染の問題が起きたりするらしい)

肉の焼き方も、地域によって色んな種類のウッドチップを使ったり、ソースもトマトベース、お酢ベース、甘めのものからスパイシーなものまで色々である。そしてそれぞれの店や個人がスパイスやソースのブレンドを探求する。

そして皆が自分の地元スタイルのバーベキューが一番だと思っている(テキサス州出身の友人が、テキサスで食べたバーベキューはパサパサだと他の人にdisられて、えらく気分を害していたことがあった。ベジタリアンなのに)。

こんなんでコンテストで一番を決めようなどと、暴動が起こるんじゃないかとも思われるが、結果がどうだったかはすっかり忘れてしまった。

地域による違い、そのこだわりや地元スタイルへの誇り・・・、なんとなく見ていて日本のラーメンへの思い入れに似ているかもしれない。

さて悪徳事務所に就職してしまったミッチさんなので、この後は正義を取るか、弁護士としての義務を取るかてんやわんやの大騒ぎで、ゆっくり食事どころではなくなる。切羽詰まったシーンの多い映画になるほどなかなか食べ物は出てこない。

そんな中、ボストンでの貧乏生活を懐かしむ奥さんにとっては、テイクアウトの中華料理のほうが幸せの象徴だったよう。

「心から笑ったのは四川ビーフを食べたあの時が最後」「ボストンに戻ったら、私達にはWong Boysがある」と2度ほど中華料理への言及がございます。よっぽど四川ビーフ好きなんだな。

アメリカの貧乏学生が食べる安いテイクアウト中華、もちろん本格中華からはほど遠いものではあるけれど、こだわりのBBQより、幸せは安い中華料理にあり…

23年前にこの映画を観た時には、全然気が付かなかった人生の深ーい教訓なのであった。

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