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【エッセイ】漢字練習

私は子供の時から勉強が大嫌いで、ろくに勉強していなかった。
それよりも身体や手を動かしている方が好きで、流行りのダンスを覚えて踊ったり、図工でいろんなものを創ったりしている方が楽しかった。
自分の興味のないことにできるだけ頭を使いたくないので、国語のテストの冒頭の物語を読まずにすっ飛ばして解答したり(その物語の問題なのに)、算数のテストの最後の方にある文章問題は見なかったことにして手を付けなかったりもした。

しかし漢字テストは好きで、よくノートに永遠と熟語を書き続けて練習していた。
国語の時間にいつも漢字練習の宿題がでるのだが、その日に先生に指定された10個の熟語を30回ずつノートに書くというものだった。
私は30回では飽き足らず、その10倍ずつくらい熟語を書きまくった。
こうやってただ頭も使わずに熟語をノートに書き続けているだけなのに、親はとても喜んでいた。
それもそのはず、今までのテストの平均点は20点くらいだったし、いつも家に帰ったら変なダンスを踊りながら大声で歌うか、唐突にうんこだちんこだ言って発狂するかだったので、大人しく勉強机に向かっているだけで感激ものだろう。
一方の私は、机に向かって漢字を書き続けているものの、頭の中はいつも他のことばかり考えていた。片想い中のひろきくんのこととか、次はどのお菓子を食べようとか、もうすぐ運動会だなとか、そんなことばかり考えていて、今練習している熟語のことなんか1ミリも考えていなかった。

そのときにこんな事も考えていた。
「このノートはいつも花丸がついて返ってくるけど、ただ永遠に同じ熟語が書かれているだけのノートなんか、先生はちゃんとチェックしてるのかな?いや、多分ちゃんとはみてないよね。ましてや私は人の10倍も書いてるわけだし…。」

私は先生を試してみることにした。
「よーし、熟語以外の文字をまぎれこませてみよう」とニヒルな笑みを浮かべながら、いつもより小さめの字でノートに熟語を書き始めた。
え〜っと、まず”給食”ね。給食給食給食……
50回くらい書いたのち、”う”と小さく一文字。さらに給食を50回書き、”ん”。さらに50回書き、”こ”。
私はこれを提出するのが楽しみで仕方ない気持ちと、初めての試みによる不安とでいっぱいだった。

返却の時がきた。恐る恐るノートを開いてみると、いつも通り花丸がついているではないか!!!
私は興奮した。同時にこのスリルの虜になってしまった。
前回は50回ずつの練習でカモフラージュした”う” ”ん” ”こ”を今度は30回ずつの練習に減らしてみたり、いろんな方法を試していった。
それでもなかなかバレないので、私は仲間を増やすことにした。

えりちゃんは最初からなかなかの強気で、字は小さいが、”うんこ”とまとめて書いていた。これはかなり勇気のある行動だし、「この子を見込んだ甲斐があったかも。」と思った。

2人でわくわくしながら返却されたノートを開いたが、やはり気付かれず!!

しかし、最初こそバレないようにこそこそやっていたが、こっちはもう半年以上もこれを続けている身、もうそろそろ気付いてくれてもいいんじゃないかと思い始めていた。

その時がやってきたのはそれから2ヶ月後。
もうこっちは投げやりになっており、50回ずつの練習の間に”うんこ” ”ちんこ” ”まん〇”とやったとき、終わりを迎えたのであった。
私がこの実験を始めてから9ヶ月が経っていた。

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