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序文が美しい~『アイヌ神謡集』(知里幸恵)~

明治から大正にかけての時代を生きたアイヌの女性、知里幸恵がまとめたユーカラ(アイヌの神話)の本です。

↑kindle版


アイヌ語は字を持たないので、アイヌ語のローマ字表記、注釈、日本語という順でkindle版では収録されています。本来の岩波文庫版は、見開き左にアイヌ語のローマ字表記、右に日本語という状態で対訳の形で収録されているので、その方が圧倒的に読みやすいかと思います。

↑文庫版


でもまぁkindleで無料で読めるのですから、文句を言うわけにはいきませんね。

ちなみにkindleをお持ちでない場合は、青空文庫のサイトでも読むことができます。


序文の文章が、圧倒的な美しさです。

その昔この広い北海道は,私たちの先祖の自由の天地でありました.天真爛漫な稚児の様に,美しい大自然に抱擁されてのんびりと楽しく生活していた彼等は,真に自然の寵児,なんという幸福な人だちであったでしょう.

これはほんの冒頭部分ですが、この後伝統的なアイヌの生活が文学的な表現で語られます。


知里幸恵自身の文章の巧みさに対し、かえってユーカラの翻訳では少々意味不明なところがあるのはご愛敬です。まぁ日本語にしきれない部分もあるのでしょうし、口伝えで代々伝わってきた物語詩の雰囲気はよく出ていますが。


それにしてもアイヌの世界観、なかなか面白いです。


鳥でもけものでも山にいる時は,人間の目には見えないが,各々に人間の様な家があって,みんな人間と同じ姿で暮していて,人間の村へ出て来る時は冑を着けて出て来るのだと云います.そして鳥やけものの屍体は冑で本体は目には見えないけれども,屍体の耳と耳の間にいるのだと云います.

動物が本当は人間と同じ姿で暮らしている、というのは童話の世界のようで楽しいです。


鳥やけものが人に射落されるのは,人の作った矢が欲しいので,その矢を取るのだと言います.

これはちょっと、狩りをする人間にとって都合の良い解釈だと思いますが。


カエルの鳴き声を「トーロロ ハンロク ハンロク!」と表現しているのも、確かにそう聞こえなくもないなと思いました。


それから,毎年,人間の女たちは
栗の穂を摘む時は沼貝の殻を使う様になったのです.

これ、石包丁ならぬ貝包丁のことですね。


知里幸恵はこの『アイヌ神謡集』の原稿チェックを終えた夜、わずか19歳で亡くなってしまいますが、長生きしていたら、もっと様々な作品を残しただろうと思うと、残念です。


見出し画像は、旭川の優佳良織工芸館で以前買ったしおりを拡大したものです。


↑kindle版



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