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ヨーロッパ的歴史観への異議申し立て~『グローバル・ヒストリー入門 世界史リブレット127』(水島司)~

「グローバル・ヒストリー」という響きに惹かれ、読んでみました。


そもそもグローバル・ヒストリーとは何か、その特徴が冒頭で述べられています。

第一の特徴は、あつかう時間の長さである。(中略)場合によっては宇宙の誕生までもが対象に含まれる。

うーん、壮大ですね。


第二の特徴は、対象となるテーマの幅広さ、空間の広さである。

第三の特徴は、従来の歴史叙述の中心にあったヨーロッパ世界の相対化、あるいはヨーロッパが主導的役割をはたした近代以降の歴史の相対化である。

第四の特徴は、たんなる地域比較で終わるのではなく、異なる諸地域間の相互連関、相互の影響が重視される点である。

第五のもっとも重要と思われる特徴は、あつかわれている対象、テーマが、従来の歴史学ではほとんど取り扱われてこなかったものが多く、歴史学に新たな視角をもたらすものであることである。

いわゆる一国史、あるいはせいぜいヨーロッパやアジアといった地域の単位でみる歴史からの脱却だということだと思いますが、すでに高校の世界史の教科書にはそういう視点が盛り込まれています。私自身、各地域のつながりを踏まえて教えているつもりですし(それが生徒に伝わっているかはともかく)。


これらの特徴を踏まえた上で、グローバル・ヒストリーの具体的な研究成果を次々に紹介していくのが本書です。印象的な指摘をいくつか挙げておきます。


ホジソンは『世界史再考――ヨーロッパ、イスラーム、世界史論集』において、歴史地図などに使われるメルカトール図法によりインドとスウェーデンが同じ大きさに見えてしまうことの問題点を、すでに一九四〇年代の初めから指摘している。

『リオリエント――アジア時代のグローバル・エコノミー』においてフランクは、(中略)「なぜ中国は国(country)とされ、インドは亜大陸(sub-continent)と呼ばれるのに、それよりも人口も面積も小さいヨーロッパが大陸(continent)とされているのか」というヨーロッパ中心の考え方の奇妙さを指摘した(後略)。 

この2つの指摘には、唸らされました。ちなみにインドの面積は329万㎢、スウェーデンは44万㎢です。中国の面積が960万㎢、ヨーロッパ全体で約2720万㎢(ロシアを除けば1010万㎢)です。


インドはまた、過小な資源に対応した精密な資源の分配体制を中世から近世にかけてつくりあげ維持してきた。そうした資源節約的な技術体系と社会体制を保持してきたインドが、過大なエネルギー消費の道をまっしぐらに追及してきた欧米「先進」国よりも発展していないといえるのかどうか。

こういう、これまでの固定観念、言ってみればヨーロッパ的歴史観への異議申し立てこそ、グローバル・ヒストリーの存在意義であり、醍醐味なのでしょう。今後も、グローバル・ヒストリーの研究成果に注目していきたいと思います。


見出し画像は「グローバル・ヒストリー」にちなみ、東京ディズニーシーの地球儀の写真です。




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