【読書】ご当地文学としては面白い~『こちら横浜市港湾局みなと振興課です』(真保裕一)~
この本は何かの加減でアマゾンの検索に引っ掛かり、いずれ読もうと思っていました。そうしたら先日図書館に行った際、返却された本の中にあったので、良い機会だから読もうと思った次第です。
↑文庫版
主人公の暁帆(あきほ)ですが、名前の字面が固いので、冒頭2ページまでは男性だと思っていました。すぐに誤解に気付きましたが。
彼女が務める横浜市港湾局は実在ですが、みなと振興課は架空の部署です。でも「港湾局みなと賑わい振興部賑わい振興課」がモデルでしょうね。部下の城戸坂と共に、本人たちの自覚とは別に「難題を巧みに処理する名コンビ」(p.168、以下ページ数は単行本のものです)として活躍する連作短編です。
これを読んで思い出したのは、以前とある地方自治体の職員の方が語っていたこと。当時、その地方自治体の首長だったのは、政治家としてはほぼ素人の方でしたが、その職員の方は首長のことを非常に警戒というか、はっきりいって嫌っていました。「自分たち職員はずっといる存在、知事は一時的な存在」というニュアンスのことを言っていて、まさに「不用意なひと声」で「大混乱に見舞われる」んだと言っていました。
それを聞いて、個人的に反発を感じたのを覚えています。別に私はその首長の試みをすべて評価していたわけではありませんでした。良いものもあれば、税金の無駄遣いともいえる、パフォーマンス的なものもありました。でも知事のやり方が不満なら、辞めれば、と思いました(初対面な上、その後二度と会う機会のない方だったため、言いませんでしたが)。公務員になったからには、定年まで絶対に辞める気はないということでしょうね。
こういう発想の人には、公務員になってほしくないですね。
でも初任当時はこういう発想だった暁帆が、以下の言葉を言うまでに成長するのです。
公務員全員にこのように考えろという気はありませんが、これが基本姿勢であってほしいです。
公務員住宅が中区の千代崎町にあるという設定には、ウケました。本当にあるのかは知りませんが、あってもおかしくはないのです。
暁帆が仕事がらみで巻き込まれるトラブルを、部下の城戸坂と共に解決するというミステリー形式で進む物語です。連作短編ですが、第一章で伏線が引かれた謎が、最後の第五章で解決します。第一章・第二章は少々謎解きに強引さがあっても、文章が達者なので、するする読めましたが、第三章の謎の真相はかなり強引かつ無理があり、ちょっと嫌になりました。第四章で盛り返し、一気に第五章へと突入しましたが、戦前の謎と三十五年前の謎、現在進行形の謎がすべてつながっており、かつ一気に解決するというのは、重ねて強引かつ無理があります。
ちょっと考えさせられたのは、以下の暁帆の言葉。
そして印象的だったのが、以下の部分。
通勤で通る道沿いで、現在まさに丘陵地の宅地開発が進行中なので、よく分かります。
ミステリーとしては、ちょっと甘いかなという感じですが、横浜市民として、ご当地文学として読めば大変面白かったです。
見出し画像は、横浜市港湾局の名前入りのマンホール蓋です。よろしければ、ブログの方の記事もご覧ください。
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