見出し画像

真人間の茂兵衛~『上田合戦仁義 三河雑兵心得(九)』(井原忠政)~

家康、信長をはじめ、この時代の有名人になぜか会い、かつ結構気に入られてしまう茂兵衛の話も、9巻目です。「姿形に似合わず人たらし」(p.152)と、家康に称されていますが。

↑kindle版


一般に、主人や上役から見て、家臣や下役の愛嬌は優先順位の低い資質と言える。面白みや可愛げがなくとも、仕事をちゃんとこなす男の方が有難い。(中略)しかし、下役から見る場合、上役の資質としての愛嬌は、必須の項目となる。どんなに優秀でも、愛嬌の無い――面白みのない上司に仕えるのは鬱陶しいものだ。

p.36

こういう風に考えたことはなかったので、面白いです。


(たァけ。こけ脅しの飾りなどであるものか。兜と面頬に、俺ァ幾度も命を救われとるがね)
と、茂兵衛は内心で防具の名誉のために憤慨した。

p.80

防具の名誉のために憤慨してしまう茂兵衛が、ちょっとおかしかったです。


「俺にとっての上田茂兵衛は、生涯『お頭』ですがね」

p.131

彦左のこの言葉、本当に茂兵衛は嬉しかったことでしょう。苦労して育てた甲斐があったと。


茂兵衛が家康から、ついに「植田」ではなく「茂兵衛」と読んでもらえるシーン、なかなか良かったです。


「大事なことをきちんと覚えておっただけでも偉い。今後も励めよ、花井」

p.161

阿呆の花井くんの良い点を、無理にでも探して褒め、そして励ます茂兵衛、相変わらず教育者の鑑です。


(俺のような真人間が、あんな大噓つきの大悪党に太刀打ちできるかいな)

p.195

うーん、茂兵衛が自分のことを「真人間」と言うようになるとは、一巻の冒頭を思うと、隔世の感があります。まぁ実際、確かになんだかんだ言って真人間だとは思いますが。


田圃を焼かれた農民の怨嗟の矛先は、なぜか火を放った敵側には向かわない。
「うちの殿様は、俺らを守ってもくれねェ」と、敵の凶行を許した不甲斐ない領主に向かうものなのだ。

p.221

ロシアが今、オデーサの穀物倉庫を攻撃する理由は、これでしょうか。


それにしても第一次上田合戦における真田の戦い方、容赦がなさすぎで、読んでいて疲れました。

茂兵衛の中で、昌幸に対する敵愾心が沸き起こっていた。正々堂々とはほど遠い、手練手管の限りを尽くした戦だ。小が大を喰おうとするなら、この手の戦い方しかないのは分かるし、卑怯と詰るのは止めておくが――それにしても、ムカッ腹が立つ。

p.244


今巻は、かなりとんでもないところで終わっているので、次巻を早く読みたいです。


見出し画像には、「みんなのフォトギャラリー」から上田城の写真をお借りいたしました。


↑文庫版



この記事が参加している募集

最近の学び

歴史小説が好き

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。