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【読書】広い世代に役立つ~『この世でいちばん大事な「カネ」の話 新装版』(西原理恵子)~

西原さんが、自らの半生と共に「カネ」について語る本です。小中学生を主な読者に想定していると思われますが、もちろん大人が読んでもためになります。

↑kindle版


港には、なんと「野良ペン」がいた。
野良ネコじゃないよ。野良のペンギン。
遠く南極海まではるばる船を出した漁師さんが「子どものお土産に」ってさっむいところからペンギンを連れて帰ってきちゃうの。
(中略)でも子どもってすぐに飽きちゃうでしょ。飼いきれなくなって、そのへんに放しちゃう。

p.13(以下、ページ数は2011年発行の新装版のもの)

西原さんが幼少期を過ごした高知の浦戸の話ですが、おいおいという感じですね。


ともあれ、実体験から出てきた西原さんの言葉は、どれも真実です。

人って気候がよくて、食べる物に困らなければ、お金なんかそんなになくたってカリカリしないで暮らしていけるものなのよ。

pp.14-15

「貧困」と「暴力」って仲良しなんだよ。
貧しさは、人からいろいろなものを奪う。(中略)それで大人たちの心の中には、やり場のない怒りみたいなものがどんどん、どんどん溜まっていって、自分でもどうしようもなくなったその怒りの矛先は、どうしても弱いほうに、弱いほうにと向かってしまう。

p.29

「貧しさ」は連鎖する。それと一緒に埋められない「さびしさ」も連鎖していく。ループを断ち切れないまま、親と同じものを、次の世代の子どもたちも背負っていく。

p.32


「正しいことは正しい。まちがってることはまちがってる。人間、そう言える気概だけはなくしたらダメだぞ」

p.64

かなり困った人だった西原さんの2番目のお父さんですが、この言葉が西原さんを救います。


よく「自分に向いてる仕事がない」って言う人がいるけど、食わず嫌いしてるってことも、あるんじゃないかな。やってみなきゃわからない、そんなことって、この世界には、いっぱい、あるからね。自分のことをやる前から過大評価してると、せっかくのチャンスを逃してしまうかもしれないよ。

p.108

「才能」って、人から教えられるもんだって。
いい仕事をすれば、それがまた次の仕事につながって、その繰り返し。ときには自分でも意識的に方向転換をしながら、とにかく足を止めないってことが大事。

p.109

金言です。最近は就職して1年以内に辞めてしまう若者が増えているそうですが、彼らに聞かせたいです。もちろん、本当に向かない職場なら仕方がないですが、あっという間に来なくなってしまう(しかも連絡なしで)という話も、耳にするので。


高知には「ふるまい」っていうのがあるのよ。お客が来たら三日三晩は酒を飲ませて帰さず、といった「ふるまい」の文化がある。来ていただいたからには、とにかく徹底的に、もてなす。わたしの持ち前のサービス精神みたいなものも、もとをたどれば、この「ふるまい」の文化からきているような気がする。

p.110

なるほど。


今、自分がいる場所が気に入らなくって、つらい思いをしてる子だって、その「嫌だ」って気持ちが、いつか必ず、きっと、自分の力になる。
マイナスを味方につけなさい。今いるところがどうしても嫌だったら、ここからいつか絶対に抜け出すんだって、心に決めるの。
そうして運よく抜け出すことができたんなら、あの嫌な、つらい場所にだけは絶対に戻らないって、そう決めなさい。
そうしたら、どんなたいへんなときだって、きっと乗り越えることができるよ。

pp.111-112

本当につらい思いをしている子だけではなく、中途半端に「親ガチャ」とか言っている子にも聞かせたい言葉です。西原さんが本当につらい思いをしてきたからこその、言葉です。


どこかに、自分にしっくりくる世界がきっとある。
もし、ないとしたら、自分でつくっちゃえばいい。
働くっていうのは、つまり、そういうことでもあるんじゃないかな。
仕事っていうのは、そうやって壁にぶつかりながらも、出会った人たちの力を借りて、自分の居場所をつくっていくことでもあると思う。

pp.117-118

何か染みます。


「この人には負けた!」、そう思える人と出会ったら、くやしがるだけじゃなくて、喜んじゃっていい。
だって、それが「世間の広さを知る」ということだから。

p.134

生徒に聞かせたい言葉です。


「カネについて口にするのははしたない」という教えも、ある意味、「金銭教育」だと思う。でも、子どもが小さいときからそういった「教え」を刷り込むことで、得をする誰かがいるんだろうか?
いる、とわたしは思う。
従業員が従順で、欲の張らない人たちばっかりだと、会社の経営者は喜ぶよね。

p.175

これ、ちょっと考えさせられました。


自分と違う境遇の人の立場や気持ちを想像することができない、想像力の欠如っていうのも、「人を人でなくしてしまうもの」のひとつかもしれないね。
そして、それは「カネ」が生み出す格差の中にも潜んでいるものだと思う。

p.181

最近、想像力が欠如した「人でなし」が増えている気がするので、印象的でした。


人が喜んでくれる仕事っていうのは長持ちするんだよ。いくら高いお金をもらっても、そういう喜びがないと、どんな仕事であれ、なかなかできないつづくものじゃない。
自分にとっての向き不向きみたいな視点だけじゃなくって、そういう、他人にとって自分の仕事はどういう意味を持つのかっていう視点も、持つことができたらいいよね。
自分で稼いだこの「カネ」は、誰かに喜んでもらえたことの報酬なんだ。
そう実感することができたら、それはきっと一生の仕事にだって、できると思う。

pp.198-199

これは就職活動中の学生に聞かせたいですね。


貧しい国の子どもたちが難民食を配ってもらわないと生きていけないとしたら、せっかくの「配る」という行為も、人を家畜にしてしまうんじゃないのか、ってわたしは思う。
「エサをもらって生きる」だけじゃ牛や馬と同じになってしまう。人でなくなってしまう。そうじゃなくって、やっぱり「働くことができる」「働ける場所がある」ってことが、本当の意味で、人を「貧しさ」から救うんだと思う。

pp.217-218

以下の記事で紹介した、「食べ物をくれるより、つくり方や調理法を教えてほしい」というミャンマーの少数民族の言葉に通じるものがあります。


グラミン銀行の生みの親であるムハマド・ユヌス氏は、アメリカに留学した経験もあるエリート経済学者だった。でも帰国してから、バングラデシュの大飢饉に直面する。
「自分が勉強してきた経済学が、食費さえ稼げずにやせ細っていく人たちを救えないのだとしたら、いったい、何の意味があるだろう」。
やむにやまれぬ気持にかられたユヌス氏は、貧しい村を歩くうち、竹細工で生計を立てていた女の人たちに、自分のお金から材料費として二十七ドル、日本円にして三千円くらいを無担保・無利子で貸してあげた。
これが、「グラミン銀行」のはじまり。
グラミン銀行の「グラミン」はベンガル語で「農村」って意味なんだよ。これまで、農村部の貧しい人たちは担保にするものがないから、銀行から融資を受けることもできなくて、永遠に貧しいままだった。「そんなのは絶対におかしい」って考えたユヌス氏は「弱者のための銀行」をつくる決意をした。
(中略)
グラミン銀行は融資対象を女性に限定している。バングラデシュは女性どうしのつながりが濃い土地柄だったので、グループごとに返済計画をきちんと立てさせるようにしたからだった。(中略)
九割以上の高い返済率を誇るグラミン銀行のシステムは、「少額無担保融資(マイクロ・クレジット)事業」として、今では世界中に広がっている。

pp.219-221

少し長いですが、グラミン銀行についてよくまとまっていたので、備忘録代わりに書いておきます。
三千円が、世界を変えるとは。また、学問は人を救うためにあるべきと考えたユヌス氏の思いは、学問をする人すべてが持つべきです。


負のループから抜け出したかと思われた西原さんと、夫だった鴨志田穣さんが、負のループに巻き込まれたことには絶句しました。でも、最後の最後で抜け出せましたが。


生きていくなら、お金を稼ぎましょう。
どんなときでも、毎日、毎日、「自分のお店」を開けましょう。
(中略)
覚えておいて。
どんなときでも、働くこと、働きつづけることが「希望」になるっていうことを。
ときには、休んでもいい。
でも、自分から外に出て、手足を動かして、心で感じることだけは、諦めないで。

pp.234-235

西原さんの「たったひとつの『説法』」です。ここまでずっと読んできたからこそ、心に染みます。


小中学生から20代の若者まで、あるいはその上の世代でも、広い世代にとって役立つ本かと思います。


↑文庫本



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