見出し画像

導入としては悪くない~『15歳の少女が見た紛争地「パレスチナ」の未来』(Connection of the Children)~

2024年1月23日付の『東京新聞』朝刊の横浜神奈川欄で紹介されていて興味を持ち、読んでみました。

中学を卒業したばかりの女の子のパレスチナ訪問記ということで、かなり期待していたのですが、残念ながら、期待したレベルには達していませんでした。もちろん、「15歳の少女」こと浅沼貴子さんは悪くありません。彼女は5日間の滞在から多くのものを吸収し、いろいろ考えたことを自分の言葉で率直に記しています。


まず良くないのは、地図です。使っている地図がほぼすべて転載された英語のもので、せいぜいものによっては必要な部分に最低限の日本語が書かれているだけなのです。小学生・中学生が読むことも想定されているはずなのだから、すべて日本語で書かれた地図を、独自に用意すべきだったのではないでしょうか。

そしてその地図も、本になった状態を想定して使用されているとは思えません。13ページと14ページでは、ページにまたがる形で地図が使用されていることに、かなりテンションが下がりました。この本で初めてイスラエルの地図が出てくるのがここなのに、とても見にくいのです。特にガザ地区は、ちょうどページとページの間ににまたがってしまっています。また21ページの地図には分離壁が建設されている場所が黒、国連決定のイスラエル・パレスチナの停戦ラインが緑の線で示されているのですが、黒と緑の違いが分かりにくいです。


本文も、小学生でも分かるようにと、すべての漢字にルビを振り、易しい言葉で書こうとする努力は伝わりますが、かみ砕きすぎて正確さを書いているように思える部分もありました。


辛口のコメントから入ってしまいましたが、もちろん発見もありました。

私は、難民キャンプといえば、大きなテントをイメージしていました。でもパレスチナの難民キャンプは一見、他地区の建物と変わりのないものでした。

p.25

私も漠然とテントが建っているのかと思っていましたが、考えてみれば75年間もテント暮らしなわけないですよね。自分の認識が恥ずかしいです。難民キャンプの建物は、セメントやブロックで出来ています。

イスラエルの入植により、家を奪われて難民は増え続けているのに、難民キャンプの土地は広がらない。だから、上に上に階を継ぎ足して、部屋を作っているんだよ。そのため人口密度は高く、衛生面でも、建物の強度も非常に良くない状況となってるんだ。

p.25


同じパレスチナの人でも、貧富の差は大きく、難民キャンプに住む人は最下層の生活を強いられているんだよね。

p.25

ヨルダン川西岸に住む、難民ではないパレスチナ人は、比較的良い生活をしています。とはいえ、ある日突然イスラエル人に家を乗っ取られ(これが「入植」ということ)、元の家の前にテントを建てて暮らすようになるということも、起こるわけですが。


結論としては、パレスチナ問題について知る導入としては悪くないかもしれません。でもこの本だけで終わらせず、別の本(例えば下記の『ガザとは何か』など)を利用して、もっときちんと学んでほしいなと思います。


見出し画像は、熱海山口美術館で撮ったバンクシーの絵です。



この記事が参加している募集

読書感想文

最近の学び

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。