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人を羨む自分もまた、羨みの対象~『若様組まいる』(畠中恵)~

*この記事は2019年2月にブログで公開したものの再録です。


割と集中的に畠中恵の小説を読み、いささか飽きていたところだったのですが、この『若様組まいる』、面白かったです。ひょっとしたら今までに読んだ畠中恵の作品の中で、一番面白いかもしれません。

↑kindle版


先日ご紹介した『アイスクリン強し』の前日談にあたる話ですが、畠中恵の小説にしては珍しく、長編です。彼女は連作短編の作品が圧倒的に多いのですが、実は長編の方が得意なのではないでしょうか。「しゃばけ」シリーズも、長編だった第1作の『しゃばけ』が、結局一番面白かった気がするし。


で、『若様組まいる』ですが、様々な立場の者たちの思惑が交錯する話です。元の旗本の若様たちで構成された「若様組」。官軍側の「薩摩組」。親は「若様組」と同じ旧幕臣だけど、静岡に引っ込んだ徳川家に付いていった者の子息たちである「静岡組」。明治になって成り上がった商人の子たちである「平民組」。さらにいえば、同じ組の中でも微妙な立場の違いもあります。それぞれが、自分と違う立場のものをある面では羨み、ある面では蔑みつつ、いつしか同じ巡査を目指す者として結束していく様は見事でした。


自分以外の存在を、恵まれていると羨んでしまう気持ちは消せないけど、でも違う立場の者からすると、自分もまた羨みの対象なんですよね。そのことにちゃんと気づいているか気づいていないかで、歩む道がまた違ってきてしまう。


ちなみに憎まれ役の幹事ですが、この人、一見ものすごく理不尽なんだけど、実は教わる側のことをちゃんと考えていて、良い教師だなーと感心しました。


第3作の『若様とロマン』も、読むのが楽しみです。

↑文庫版



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