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三者三様のマラソン小説~『シティ・マラソンズ』(三浦しをん、あさのあつこ、近藤史恵)~

*この記事は、2019年7月のブログの記事を再構成したものです。


アシックスのキャンペーンのために書かれた、3人の著者による短編を収録したものです。

↑文庫版


「純白のライン」(三浦しをん)

なんだかんだ言って、この人はうまいなーと改めて感心しました。社長の娘を監視するために、社長命令でニューヨークシティマラソンに参加することになった広和が主人公です。

社長の娘とは会う約束もしていないのですから、本来は会えるはずもないのに、奇跡的に会え、一緒に走ることになります。展開としてはご都合主義なのに、小説的ご都合主義と感じさせないのですから、それはしをんさんの筆力によるものでしょう。


またマラソンへの参加には、実は広和の知らない隠された目的があったのですが、それが分かった瞬間、広和も読者も目が開かれた思いになります。走る楽しさを久しぶりに思い出し、しみじみ感じる広和同様、読んでいるこちらも、読む楽しさを久しぶりに感じました。


「フィニッシュ・ゲートから」(あさのあつこ)

ファンの方には申し訳ありませんが、私はあさのあつこの作品がどうしても好きになれません。「バッテリー」シリーズ、「No.6」シリーズ、「さいとう市立さいとう高校野球部」シリーズなど、実はあさのあつこの作品は結構読んでいるのですが、彼女の作品に共通する「あざとさ」が嫌なのです。中高生に受ける要素をちょこちょこ盛り込むというか。

あと、せっかく面白い設定やエピソードなのに、それをちゃんと描き切らないところも苦手です。印象的なシーン、気になる台詞をチラ見せされている感覚なんですよね。もっとしっかり書き込んでほしいのです。

ちなみに好きになれないと言いながら結構読んでいるのは、なぜ彼女の作品が人気なのか、私には理解できない秘密があるのかと気になり、ずるずる読んだ結果です。


今作でも、彼女特有のあざとさはなかったわけではありませんが、まぁ短編なので、鼻につく前に読み終わってしまいました。あざとさより、時間軸の行ったり来たりのほうが、気になったかな。話の最初と最後が東京マラソンの出発直前の「現在」で、間に回想が入る構成なのですが、回想内に回想が入ったりするので、話の前後関係がちょっとつかみにくいです。


「金色の風」(近藤史恵)

多分私がこの人の作品を読むのは、初めてだと思います。感想は、一言「もったいない!」です。短編なのに、すごくいろいろなエピソードが盛り込まれているので、もうちょっと長くしっかり書き込んだら、もっと面白くなった気がします。上記のあさのあつこにも見られるもったいなさですね。

特にパリマラソンのシーンは、もっと書き込んでほしかったし、出来ればフィニッシュまで書いてほしかった。完走した主人公の見た風景、感じたことを読みたかったです。


なお電子書籍版なら、各作品を個別にお安く買うこともできます。



見出し画像には、「みんなのフォトギャラリー」で「マラソン」で検索したら出てきた画像を使わせていただきました。鯛焼きくんが走っている様子が、シュールで可愛いです。



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