見出し画像

小説は現実を先取りする~『あしたの華姫』(畠中恵)~

『まことの華姫』の続編です。しっかりキャラも固まったせいか、前巻より面白かったです。

↑kindle版


例のごとく連作短編ですが、今回の通しテーマは、主人公の月草が姫様人形の華姫と共に話芸を見せている小屋の持主である、山越の親分の後継者選びです。短編1つごとに、有力な後継者候補が減っていきます。


最後の「悪人月草」では、謎解きがナレーションベースで行われてしまったのが残念でした。これ、畠中さんの悪い癖なんですよね。でも、それ以外の短編は上記のとおり、なかなか面白かったです。


しかし前から思っていたことですが、小説やマンガって、時に現実の先取りをしますよね。そもそも後継者問題が浮上したきっかけは、山越の親分と一人娘のお夏が、共に重い麻疹にかかったことでした。最初の「お華の看病」は「小説 野生時代」で2019年10月に発表されているのですが、それからじきに感染症が世界を大混乱に陥れるとは、畠中さんは思ってもいなかったことでしょう。


加えて「お夏危うし」(2019年12月発表)には、これまた現在を先取りしたような描写があります。いささか長いですが、引用します。

「小屋を休めなくて、済まねえな。だがなぁ、この小屋を頼りにしてる者は、おめえが思ってるより、存外多いんだよ」

 小屋で働いている若い者達は、勿論ここが頼りだ。だがそれ以外にも、小屋へ品物を納めている店の事も、考えねばならない。更に、最近月草の小屋の周りには、蕎麦や団子、ところてんに寿司などの、屋台見世が集まって来ているのだ。

 小屋が休みになると、顔が引きつる者達が、出るわけだ。


 今回のパンデミックで、スポーツや演劇などが中止、あるいは観客を大幅に減らしての開催に追い込まれましたが、そのことを予期していたかのようです。例えば演劇であれば、中止の場合、単にキャストやスタッフが困るだけではなく、その劇場周辺の飲食店等にも影響は及ぶわけです。

もちろん感染防止のためには仕方がないとはいえ、何らかの決定を下す際は、影響は思いがけないほど広くに及ぶことを考えねばならないのだと、改めて考えさせられました。


見出し画像は、本文中に登場するので、大福の写真を使わせていただきました。


なお前巻の『まことの華姫』のレビューと、それを手掛かりに世界史について考察したnote記事がございますので、よろしければご覧ください。


↑単行本

この記事が参加している募集

推薦図書

読書感想文

記事の内容が、お役に立てれば幸いです。頂いたサポートは、記事を書くための書籍の購入代や映画のチケット代などの軍資金として、ありがたく使わせていただきます。