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さすが直木賞受賞作~『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』(大島真寿美)~

*この記事は、2020年1月のブログの記事を再構成したものです。


先月(2021年8月)、この『渦 妹背山婦女庭訓 魂結び』が文庫化された上、続編の『結 妹背山婦女庭訓 波模様』が発売されたとのことなので、この記事をnoteの方に移すことにしました。

↑kindle版


いや、すごかったです。久しぶりに大作を読んだ気がしました。主人公は、近松門左衛門の硯を受け継いだことから、自分を門左衛門の後継者とみなす近松半二。硯だけでは根拠はだいぶ希薄ですが、子どもの頃から父の以貫に連れられ、道頓堀で操浄瑠璃を見続けた彼は、浄瑠璃の作者としてのセンスも間違いなくあります。


とはいえ、半二が浄瑠璃作者になるまでが、まぁ大変。なってからも、代表作の「妹背山婦女庭訓」を生み出すまでが、さらに大変。その後も、「妹背山婦女庭訓」の後遺症で、それまで以上に大変です。


でも半二自身は自分の一生を、

わしの一生、まあまあやったけども、まあまあ、いうんは、あんがい、ええもんなんやで。

と評しています。そんな風に人生を締めくくれたら、良いなぁ。


ちなみに表題の「渦」は、物語の源とでも言うべき存在で、そこにはこれまでに生み出された、あるいはこれから生み出される作品、それらの作品の作者、作品を観るお客などが混然一体となって溶け込んでいます。そこから作品を字として引きずり出すのが作者の仕事なわけですが、一歩間違うと、そこに引きずり込まれる危険もあります。


当時の道頓堀では、何か1つ名作が生まれたら、それが即まねされるのが普通だったようです。ただのパクリではなく、アレンジを加え、更に良いものにしていくわけですが。本文中の言葉を借りれば、

ここではなにからなにまで、ぐちゃぐちゃや。歌舞伎も操浄瑠璃も、お互い、盗れるもんがないか、常に鵜の目鷹の目で探しとる。歌舞伎が操浄瑠璃を、操浄瑠璃が歌舞伎を、歌舞伎が歌舞伎を、操りが操りを。

ということです。著作権もへったくれもありません。でもそれによって、現代にまで残る作品が生まれたわけです。


作品はもちろん、特定の作者が生みだしたものですが、同時に、他の誰かが生み出す可能性もあったものでもあります。他の人より早く、そして上手に形にした人が、作者となるわけです。「作者」となる、それも傑作の作者となることは、本人に絶頂の幸せを与えるけど、一方でとんでもない絶望ももたらすのだなと思いました。『ノルウェイの森』がバカ売れした後の村上春樹の苦悩も、そこにあったのかもしれません。


けっこう絶賛してしまいましたが、これはあくまでも読み終わっての感想でして、読んでいる最中はいろいろ不満がありました。えんえんと大阪ことば、一部京ことばが続くのが、関東の人間としてはちと辛かったし、最初の方は時間が行ったり来たりする部分があるので、混乱します。


でもまぁ、一読の価値はあります。さすが第161回の直木賞受賞作です。

ちなみに見出し画像は、ポルトガルのポルトで撮ったマンホール蓋です。上部に渦のマークがあるので、使いました。


↑文庫版




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