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桃源郷の住民の周囲の人々~『「大家さんと僕」と僕』(矢部太郎ほか)~

*この記事は、2020年7月のブログの記事を再構成したものです。


『大家さんと僕』が手塚治虫文化賞短編賞を受賞したことで矢部に起こったこと、様々な人からの矢部へのメッセージなどをまとめた、『大家さんと僕』1.5ともいうべき本です。



冒頭で矢部が、題名中の2つの「僕」について、「どちらの『僕』も僕です」と説明しています。でも2つ目の「僕」には、一方で別の意味もあります。つまり、メッセージを送っている矢部の周囲の人たちが『大家さんと僕』について感じたことを語っている部分もあるので、2つ目の「僕」は『大家さんと僕』という作品と出会った「私たち」でもあるのです。


一歩間違うとこの本は、矢部の周囲の人が『大家さんと僕』と矢部を褒めているだけのゆるい本になりかねないと思います。でももちろん、違います。褒めているんだけど、それは形ばかりのものではなく、本心からのものなのです。つまりそれだけ、『大家さんと僕』は優れた作品だし、矢部の人柄も良いんですよね。


当然矢部にだって、嫌な面、暗い面はあるはずです。『大家さんと僕』の中にも、そして『「大家さんと僕』と僕』の中にも、それをうかがわせる面はあります、それは人間だから当たり前。でもそれでも、この人は本当に人が良いんだなぁと感じてしまう。


一つには、お父さんの人柄もあるのでしょう。自分で親ばかだけど、と言いつつ、息子の作品の良い面をしっかり褒めることができるお父さんがいたからこそ、矢部はまっすぐ育ったのだと思います。


ちなみにこの本で一番ウケたのは、手塚るみ子さんとの対談中のやり取り。小学生の時に手塚治虫のファンクラブに入っていた矢部が、お父さんが保管していた当時の会員証を見せると……。

手塚:これは会員証ですね、初めて見た!
矢部」え!? ファンクラブ入っていなかったんですか?
手塚:入っていませんよ、ファンじゃないし(会場笑)。
矢部:名誉会員みたいなものですかね?
手塚:ただの家族です(笑)。


何か、説明しがたいおかしさを感じるやり取りです。


あと、矢部の体重が29キロしかないというのが衝撃でした。


見出し画像には、手塚治虫文化賞短編賞にちなみ、トロフィーのイラストを使わせていただきました。




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