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主人公は三十路の泣き虫男~『うずら大名』(畠中恵)~

*この記事は2019年2月にブログで公開したものを加筆修正したものです。


畠中恵の江戸時代ものですが、シリーズ化しても良さそうなのに、現在のところこの1冊で完結しています。シリーズ化するまでの人気が、出なかったのかなぁ。個人的には、ちょっと続きが気になるのですが。

↑kindle版


主人公は、前代未聞の三十路の泣き虫男(!)の吉之助。副主人公は、腰に下げた巾着にウズラ(「巾着鶉」というそうな)を入れている隠居大名という、聞いただけで興味が出てくるような設定です。明るいところへ出ると美声で鳴き、また巾着に帰るという巾着鶉、ぜひ欲しいです! オスの鶉の鳴き声は本当に「御吉兆―!」と聞こえるのか調べましたが、うーん、微妙な感じです。そもそも美声か?



畠中さんお得意の、短編数本で1つの大きなお話を構成するスタイルですが、そのテーマは「今の自分の境遇に不満で、自分が手にしていないものを手に入れた人をうらやむ人々」という、結構重いものです。しかも、それを手にすることに伴う、責任をはじめとする悪いことからは目を背け、ただただ良い面だけを見ている痛い人々。


そういう人って、いるよなーとため息をついてしまいます。アリジゴクのように周囲をその恨みの渦に巻き込むから、そういう人とは距離を置くしかありません。解説を書いた女優のミムラ(現:美村里江)さんの身近にもかつていたそうで、やはり距離をとる選択をしたそうです。距離を置いてからずいぶん経っても、まったく変わらない、変わろうとしない元知り合いに心を痛めるミムラさんに、「そういう人って、変わらないよね」と声をかけたくなりました。


物語の最後、黒幕は破滅の道をたどります。その黒幕のために涙を流す吉之助は、甘いといえば甘いけど、彼の涙がなければ、この話はもっと救いのないものになってしまったかもしれません。


ちなみにこれを読んで改めて、江戸時代の豪農や大商人は、下手な武士よりよほど裕福だったことを知りました。身分制度もかっちりしているようでいて、実は流動的だったというのも、近年の研究で判明していることですが。


自分が置かれている境遇に、ちょっと不満な人におすすめです。案外自分がいる場所は、悪くないと思えるかもしれません。


見出し画像には、うずらのヒナを使わせていただきました。


↑文庫版



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