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丁寧に作られている~映画「銀河鉄道の父」~

昨日は「銀河鉄道の父」を観にいってきました。


宮沢賢治をダメ息子として描いたところが、直木賞受賞作でもある原作の売りで、それが本作にも引き継がれているわけですが、賢治のファンなら彼のダメっぷりは、むしろ常識ですよね。……はい、そうです。私は宮澤賢治ファンでございます。

だからこそ、もっとダメエピソードはあるだろうと、逆に不満でした。入院先の看護婦さんを好きになって結婚したがるとか、妹のトシ亡き後の傷心旅行とか……。あと、教師としての姿も描いてほしかったな。教師や、石灰を売る営業マンとしての姿を描いていない本作を観ると、賢治がただの頭でっかちのニートに見えるんですけど……。

とはいえ、お父さんの政次郎を親バカとして描いたのは、新解釈だと思います。イメージとしては、賢治のことを分かってやれない頑固おやじでしたがが(まぁ賢治を理解できる人も、あまりいないとは思いますが)、賢治の死後に浄土真宗から日蓮宗に改宗するなど、考えてみれば、賢治に寄り添う姿勢はあったのでしょう。本作で描かれた、賢治の赤痢に自らも感染したエピソードも、実話だそうです。加えて、賢治が後に発疹チフスにかかった時も、それをもらっているし(この時の入院先の看護婦さんに、賢治は一目ぼれしたらしい)。

しかしキャストが皆、素晴らしい。賢治役の菅田将暉や政次郎訳の役所広司は、言うまでもありません。ドキュメンタリーで実写の賢治や政次郎を観ているかのように、適役。

他のキャストも、ちょい役に至るまで、かなり良い味を出しています。
冒頭の政次郎が列車に乗っているシーンで、車掌役として田中直樹が出てきた時は、つい「LIFE!」のプラス車掌を思い浮かべてしまいました。
宮沢質店を訪れる農婦役のあき竹城も、したたかな感じがナイス。
祖父の喜助役の田中泯の怪演もすごい。まぁ怪演といえば、太鼓を叩いて「南無妙法蓮華経」と唱えまくる菅田将暉の方が、上回っているかもしれませんが……。
森七菜は、政次郎を言いくるめてしまうなど、意外としたたかなトシを演じていて、これはこれでありかもと思いました。
あと、何と言っても母のイチを演じた坂井真紀が素晴らしい。「銀河鉄道の父」の陰に隠れていたけど、彼女もまた「銀河鉄道の母」だったのだなと思いました。

泣くまいと思っても、泣けるシーンばかりです。賢治の臨終のシーンは、映画での創作だそうですが、胸に染みます。ただ、ラストシーンは、何かあざとさを感じました。ダメという意味ではなく、あれが良いと言う人もいるだろうけど、個人的にはちょっと違和感がありました。

ともあれ、羅須地人協会の建物を完全再現するなど、映画の作りは本当に丁寧です。賢治ファンで本作に不満を持つ人は、あまりいないのではないでしょうか。ちなみに、私が観た時は、賢治ファンというより菅田将暉ファンかなぁというお客さんもちらほらいましたが、その方々が賢治ファンになるかは謎です。

見出し画像は、私が花巻に行った時に撮った、羅須地人協会の建物です。花巻農業高校内にあります。



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