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【読書】~憎しみの種を育ててはいけない『続まんがパレスチナ問題 「アラブの春」と「イスラム国」』(山井教雄)~

『まんがパレスチナ問題』の続編です。今巻は副題通り、パレスチナ問題だけではなく、アフガニスタン戦争、イラク戦争、アラブの春、イスラム国(正確にはISとかISILと表記すべき)についても取り上げています。

↑新書版


うわーと思ったのは、イラク戦争後のイラクについて述べた以下の一節。

第2次世界大戦後の日本占領・統治の成功体験が、アメリカに戦後処理を甘く考えさせていたのじゃないかニャ。
日本は世界でも珍しく、ほとんど同一人種、同一民族の国家。宗教も力をもっていニャイ。だから1945年に天皇が降伏を受け入れると日本人全員が従い、米軍に対する抵抗運動やテロもニャかった。普通選挙や新憲法制定などの民主化プロセスもスムーズに進んだ。しかも日本人は、非人道的な原爆や東京などの大都市に対する無差別爆撃も水に流して、すっかり親米的になってしまった。家族、友人が殺されれば絶対復讐を誓うアラブ人には理解できないことニャ。

p.60


アラブの春の発端となったチュニジアで、インターネットが大きな力を持ったというのは知っていましたが、以下の記述は興味深いです。

政府が検閲して削除したブログには「Erreur404(エラー404)」っていうメッセージが表示されるんだけど、皮肉にも、それが真実だった証拠とされた。
つまり、検閲して削除することにより、政府はそれらのブログが真実であるって「お墨付き」を与えちゃったんだ。
しかも、政府が問題あるブログを見つけて削除する前に、多くの若者はそのブログをダウンロードして再発信していた。また、削除されたブログの内容は、インターネットをしない人たちにも、カフェや職場で口伝えに広まった。

p.71

ちなみに文中の「Erreur404」は、恐らく「Error404」のことかと。それともフランス語とか、別の言語ではErreurなのかな?


エジプトについての記述も。

チュニジアでの出来事を気にかけていたムバラクには、インターネットとケータイを駆使する若者のデモが、なまじっかな手段では押さえられないことがわかっていました。
当日(注:2011年1月25日)ムバラクはまず、携帯電話網とインターネットを遮断したんです。そうしたら、インターネットもケータイも繋がらないんで、どうしたんだろうと、カイロ市民は通りに様子を見に出て来たんです。人々が通りに集まると、最も貧しくてムバラクの政府に不満を抱いていた地区から、自然と政府に抗議するデモが発生しました。カイロ中から10万人以上の人が集まり、カイロの中心にある、タハリール広場へ向けて行進を始めました。

p.81

デモを押さえるつもりが、結果的に煽る形になったとは、皮肉ですね。


#Not in my name:
2014年、イスラム教徒の若者がインターネットで始めたキャンペーン:「イスラム国」はイスラムの名を悪用してる。私たちと「イスラム国」を一緒にしないで!

p.115


外国人の過激派じゃなくて、その国で生まれ育った人が、自国で行うテロを「ホームグロウン・テロ」っていうんニャ。

p.121


2015年1月のパリにある政治漫画週刊紙シャルリー・エブド本社が、アルジェリアからのイスラーム移民の息子兄弟に襲撃され、漫画家4人を含む12人を殺した事件は、理解していない部分もあったので、勉強になりました。

この事件は、フランス人が最も大切にする「表現の自由」がテロに脅かされたっていうんで、フランス人に大反響を呼び起こした。殺された漫画家達を追悼し、表現の自由を守るため、フランス全土で370万人、パリでも120万人が「Je suis Charlie(私はシャルリー)」っていうプラカードを掲げて抗議のデモをした。このデモにはオランド仏大統領始め、各国首脳も参加した。オランド大統領は「イスラム国」に対する空爆強化を発表したんニャ。

p.125

これは知っていましたが、シャルリー・エブドの漫画がかなりひどいもので、「過激派じゃなくてもイスラム教徒なら頭にくる」ものだというのは知りませんでした。「少数派だったけど、漫画に反発する人達は、『私はシャルリーじゃない』ってプラカード持ってデモした」ことこそ、表現の自由ですよね。


おれは絶望していニャイ。「アラブの春」で街々で委員会を作り、最後まで若者に武器を取らせず、丸腰で、ケータイとインターネットで戦いぬいたチュニジアとエジプトの若者達、それに君達。この中からきっと将来のマンデラやサダトやラビンが出てくると信じてるニョだ。

p.135

ねこさんの期待に応えねばなりませんね。


「憎しみの種」を育てちゃ絶対ダメ。「アラブの春」で一度でも武器を使った国は、いまだに殺し合いを続けているんだよ。
日本は「普通の国」になんかならないで、「奇跡の国」、ぼくの憧れの国であり続けてほしいよ!

p.143


昨年来の事態を受け、更なる続編が出てほしいところです。


↑このkindle版へのリンクは、前巻と今回の続編のセット販売のものですので、ご注意ください。続編のみのkindle版は、なぜかないみたいです。



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margrete@高校世界史教員
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