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【読書】民間交流の大切さ~『中国拘束2279日 スパイにされた親中派日本人の記録』(鈴木英司)~

現在の中国が抱える問題の一部をあぶりだした本です。

↑kindle版


著者の鈴木英司さんは日中関係を良好なものにするため、日中交流を盛んにしようと長年尽くしてきた人です。

日本の友人たちからは「鈴木さんは日本よりも中国の方が好きだ。鈴木さんの主張は中国側に偏っていて受け入れられない」などと批判されることも多々あった。そんな私が日本のスパイとして中国で拘束されようとは、まったくもっておかしな話である。

p.57

本当に。中国はむしろ、この方を大事にすべきでした。


無実の罪で6年間も拘束された怒りもあり、繰り返しが多く、読みにくいところもあります。だからこそ、無念の思いが伝わります。


判決では、私が否定していたことが、すべて供述書、弁別調書で認めたことになっていた。調書にサインするということは、こういうことなのかと改めて思い知らされた。要するに、安全部の警察官や検察官の取り調べで、私がいくら否定しようとも、彼らは供述書、弁別書にはそうは書かない。しかし、サインがあれば、それが「事実」となる。彼らがサインだけは拒否させなかった理由はここにあるのだろう。

p.94

当局のつくったストーリーに沿って逮捕され、取り調べを受け、裁判に臨むのでは、有罪になるしかありません。


拘置所で同じ部屋になった中国最高人民法院(日本の最高裁判所にあたる)の元判事、王林清さんは中国法や中国の国内政治、共産党の政策決定システムについて教えてくれた。

p.122

大変な思いをされた鈴木さんを責めるわけにはいきませんが、好奇心と向学心をもっていろいろな人にいろいろ訊いてしまうところが、「スパイ活動」を行っているとされてしまった一因かもしれません。ちなみにこの王さんは、上司の規律違反を告発しようとして、逆に捕まってしまいました。


習総書記は司法への信頼確保のため「依法治国(法に基づく統治)」、つまり法治国家を掲げたが、王さんは「依法治国はまったくのインチキだ。中国でそんなことは不可能だ。中国に人権など存在しない」と私に常々言っていた。

p133


服役中に、受刑者の待遇改善に取り組んだこともすごいです。自分の為だけではなく、人の為にもなることをしたわけです。やはり中国は、この人を大事にするべきでした。


「日本にスパイ法はありませんから、日本に戻ったら中国での罪名はまったく関係ないんです。鈴木さんは善良な市民です」と言われた

p.166

それは何よりですが、ちょっと不思議にも感じます。


1人目、2人目の領事部長の発言を振り返ると、まったくやる気を感じられなかった。この人たちには状況を変えようとする意志のようなものが欠けているのではないか。流れに身を任せて時が過ぎ去るのを待つことしかしていないのではないか。ロシアによるウクライナ侵攻や中国のアグレッシブな拡大政策によって、日本の外交力が問われる時代が来るのは必至だ。だが、外交の前線がこんな弱気であれば日本はますますなめられると危惧する。何もケンカをしろと言っているのではない。何事も受け身で、自ら道を切り開いていく姿勢に乏しく見えるのが腹立たしいのだ。

p.172

鈴木さんの解放に向けて、思うように動いてくれなかった大使館への苛立ちですが、ここでも自分のことだけではなく、日本の外交自体を憂える鈴木さんの視野の広さが見られます。


鈴木さんが拘束された理由の1つとして、ご本人は「日中友好関係者の交流による情報の流出にくさびを打ち込もうとしたこと」(p.177)を挙げています。

日中友好関係者の多くが訪中しなくなった。また、研究者の足も中国から遠のいている。私の知り合いの大学教授も「拘束される恐れがあると考えると、中国にはもう行けない」と語る。交流が減れば、結果的に情報も遮断される。
だが、その副作用も大きいだろう。私が危惧するのは、日本と中国の民間交流が希薄になれば、両国関係に大きな影を落としかねないということだ。民間交流を通して平和的関係を作ることは極めて重要だ。日中関係を特徴付けてきたのは、これまでの活発な民間交流であり、これは他国との間では見られないものだ。(中略)
日中関係においては民間交流を通して複数のチャンネルを作ることが重要であり、それによって相互理解と信頼関係の醸成に努める以外に、現在の状況を打開する方法はないのではないだろうか。

pp.177-178

民間交流は、やはり大事にすべきではないでしょうか。


開放政策によって中国経済は目まぐるしい発展を見せたが、同時に進行しているのが格差問題である。現在の共産党政権はこの間、経済活動の自由をかなりの程度容認してきた。人々の欲望を満たすことで、国民の政治的な自由(結社、言論、出版の自由等を含む)を制限しても不満を抑えることに成功してきた。(中略)富裕層と貧困層、都市労働者と農民、沿海地区と内陸部など、中国には強烈な格差が存在している。

p.188

格差からくる不満は、抑えつけたところで、何らかの形でいずれ爆発するのではないでしょうか。


台湾問題についての鈴木さんの考えは、同感です。

中国が台湾を尊重し、自らが人権や民主主義を発展させ、さらに経済を成長させることで双方の交流がいっそう拡大するだろう。それによって信頼関係が生まれれば強引に統一しなくても双方の意思のもと歩み寄れる時が来るはずであり、それこそ双方の話し合いによって統一が可能になるはずである。

p.197


日本の政府への注文にも。

日本政府は安直に軍備増強を叫ぶのではなく、外交力、交渉力を高めて自国民を守るという意識を政治家も外交官も持つべきだ。

p.211


大変な思いをしたのに、それでも「今後も中国問題に関わっていきたいと考えている」(p.211)と「エピローグ」で述べる鈴木さんを、やはり中国も日本も大事にすべきです。


見出し画像は大連の星海広場にある、大連市100年を記念した1000人の足跡です。これが作られた時の大連市長の薄熙来さんは、その後失脚しました。


↑単行本



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