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【読書】最高のものを享受するために~『ローマ帝国 ココがすごい!永遠の都ローマ AERA Art Collection』(朝日新聞出版編)~

「永遠の都ローマ展」と「テルマエ展」という2つの展覧会のガイドブックを兼ねているとも言える、お得な1冊です。

↑kindle版
*kindle版があるとも知らず、私はローマ展のグッズ売り場でさっさと買ってしまいましたが、負け惜しみではなく、さすがにこれは単行本の方が見やすいのではないかと思います。まぁkindle版を実際に見たわけではないので、断言は出来ませんが。


以下、印象に残った部分を、備忘録代わりにまとめておきます。


古代ローマ人は、他民族が築いた文化を模倣し、それをマーケティングとして展開するのが得意な人々でした。(中略)古代ローマ人は無から何かを産むというアイデアや発想力には乏しいところがありましたが、属州が持っていたものを取り込んで、大衆化することには優れていた。その姿勢も明治維新以降の日本、特に高度経済成長期の経済発展を彷彿とさせます。

p.01

ヤマザキマリのインタビューからの引用ですが、なるほどと思いました。
芳賀京子さんも、同じことを別の表現で言っています。

ローマはもともとイタリア半島の小さな都市国家から始まりましたが、拡大する過程で他民族の文化や技術を貪欲に取り入れていきます。支配者だったエトルリアの土木技術を吸収して、ギリシアからは文化や芸術を取り入れていきます。自分たちの習慣や伝統にこだわらずに、どの国のやり方であろうと素晴らしいものを採用しようという気質が、都市国家のレベルでとどまったギリシアなどの小国とは違う点であると感じますね。

p.76

現実生活の利益や効用を最重要視し、2世紀頃の一番繫栄していた時代でも、ギリシア人など外国人の彫刻家や建築家を連れてきて街づくりを任せています。ローマ人は、すべての面で自分たちがトップに立とうという感覚はなく、最高のものが享受できればそれで良いという現実的な考え方を持っていました。

p.77

「すべての面で自分たちがトップに立とうという感覚」を持たないという点は、これからの日本が見習っても良いと思います。


ローマ人にとって、自身の肖像彫刻を遺すことは名誉なことでした。共和政時代には「肖像権」という現代とは意味が異なる権利が存在し、重要な公職に就いた高貴な人物だけが、自らの像を制作することが許されていました。

p.44

「現代とは意味が異なる」肖像権ですか。


帝政期を迎えると、皇帝は自らがローマ帝国の正当な統治者であるという事実を、広大な領土の隅々にまで知らしめる必要が出てきます。なぜなら、ローマの帝位継承は血縁に支えられておらず、唯一の拠り所が元老院からの承認であったためです。そのため、皇帝はあらゆる手段で自らを神格化し、権威を強化する必要がありました。

p.44~45

それにしたって、頭部だけでも約1.8メートルの巨像が必要かなぁ。しかもブロンズ製、大理石製など、複数あったというし。まぁ帝国各地に置くため、複数必要だったんでしょうけど。

コンスタンティヌス帝の巨像の頭部の、実物大のパネル

なお彫刻の複製の技術は、非常に高かったそうです。

高い技術を持った職人が、三次元的にポイントを取りながら、かなり精密な複製を行っていました。たとえば、初代皇帝アウグストゥスの肖像彫刻は、地中海全域で百体以上も同じものが出土していますが、出来のいい複製だと誤差がわずか1㎜程度でコピーされています。

p.77

誤差1㎜って、3Dプリンター的ですね。それを人の力でやったわけですから。


興味深かったのは、以下の部分。

キリスト教時代に入り、古代ローマ時代の皇帝の像は、キリスト教迫害の歴史もあり破壊されました。しかしキリスト教を公認したコンスタンティヌス帝の彫像は、キリスト教徒に大切に守られ教皇のコレクションとなり奇跡的に現代に残ったのです。

p.47


バロック絵画の説明には、なるほどと思いました。

16世紀後半、絵画や彫刻に登場した新たな芸術表現「バロック」の発信源となった地こそが、カトリック教会の総本山ローマでした。カトリックは、キリスト教界の新興勢力であるプロテスタント勢が偶像崇拝に当たるとして禁じた宗教美術を最大限活用します。聖堂内を荘厳な宗教画や彫刻で飾り立て、イメージの力で広く庶民へ布教しようとしたのです。そのなかで生れたのがバロック絵画でした。

p.58


東京では2024年春に開催されるテルマエ展も、ぜひ訪れたいと思います。


見出し画像は、テヴェレ川です。


↑単行本



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