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【読書】西洋菓子の名は、登場人物たちの比喩?~『アイスクリン強し』(畠中恵)~

*この記事は、2019年2月にブログで公開したものに、加筆修正を加えました。


この『アイスクリン強し』は、単行本で読んだことがあるのですが、ほぼ内容を忘れているため、文庫本で再読しました。このシリーズの第3弾にあたる『若様とロマン』がいつの間にか出ていたのですが、それを読むためには第1弾・第2弾を復習しないと、分からなそうなので。

↑kindle版


例のごとく畠中さんのお約束で、短編集の体裁で大きな1つのお話を構成しています。舞台は明治23年、舞台は築地の外国人居留地や銀座、主人公は西洋菓子屋の真次郎。他に幼馴染の成金のお嬢様の沙羅や、元は旗本の若様である巡査の長瀬などが出てきます。

表題作の「アイスクリン強し」をはじめ、短編1つ1つに西洋菓子の名前が付いているのですが、それらのお菓子が、各短編の登場人物の比喩なのかなと思いながら読みました。


「チヨコレイト甘し」のチヨコレイトは、真次郎でしょうね。「寂しがり屋でお人好し」と沙羅に称された真次郎は、ちょっぴり身勝手な周囲の人々に振り回されますが、それは彼の甘さにつけこまれてのことだと思います。でもその甘さは決して悪いわけではなく、人を救う面もあるのです。


「シユウクリーム危うし」のシユウクリームは、ひょんなきっかけから真次郎たちが助ける羽目になった、かの子。なお明治23年といえば、あと4年で日清戦争が始まるわけですが、この短編では戦争が迫り、きな臭くなりつつある当時の雰囲気が暗示されています。


「アイスクリン強し」のアイスクリンは、沙羅の学友の女の子たちでしょう。悪い意味で、したたか。この短編にも戦争の影を感じます。


「ゼリケーキ儚し」のゼリケーキ、つまりゼリーは沙羅。本来の沙羅は「儚い」という言葉とは無縁の元気な少女ですが、周囲の思惑に流される羽目になります。でも、すんでのところで踏みとどまる様は、ゼリーがぷるんとスプーンを押し返す様を彷彿とさせます。


「ワッフルス熱し」のワッフルスは、登場人物全員でしょうね。それぞれがそれぞれの熱さを抱えているので。この短編で、序で提示されていた謎の答えが明かされるのですが、はっきり言って謎の存在を忘れていたんですけど……。畠中さんは、時々伏線の貼り方がおかしくなる気がします。


時代物でも現代ものでもない、ちょっとレトロな雰囲気が味わえる作品です。


見出し画像にはアイスクリン、つまりアイスクリームの写真を使わせていただきました。

↑文庫版




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