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不死身すぎるなっちゃん~『創竜伝10<大英帝国最後の日>』(田中芳樹)~

1巻から巻を追うごとに敵のレベルがアップしてきた「創竜伝」シリーズですが、この10巻ではとりあえずのクライマックスを迎えることになります。まだボスキャラとの直接対決とはいかず、その下っ端の下っ端あたりとの対決ですが。

↑kindle版


しかしその対決に乱入するのが、小早川奈津子です。ついに口絵を飾り、冒頭の登場人物の紹介では一言「ドラゴンバスター」と書かれているのには、笑いました。そして始には、以下のように言われる始末。

「あの怪女ひとりが乱入してきただけで、お笑い劇場になりさがる。地球の支配権をめぐる争いなんて、そのていどのものだ」

しかしなっちゃん、不死身すぎます。命の危機に立たされると、竜堂兄弟は竜になることで生き延びますが、なっちゃんは人間のままで生き延びるのだから、ある意味竜堂兄弟より強い気がしてきました。


↑新書版。私はこのバージョンで読みました。


印象に残った部分。


「日本は小さな悪に対しては厳しい社会なのだな」
そう始は思わざるをえない。民間人の一〇円、一〇〇円の単位での不正には目の色を変えるが、何千億、何兆という公金の不正にはじつにおおらかだ。

まさに21世紀になっても変わらないどころか、その傾向は増している気がします。


「使命を果たすのはわが合衆国だが、それをささえる義務は全人類のものだ」

作中の合衆国大統領の台詞ですが、現実の歴代の合衆国大統領も、実際にそう思っていそうな気がします。


そもそも政府というものは、個人の力で対処しようのない巨大な災害から市民を守るために存在するのだが、
「どうせ現場の努力を無にするようなことばかりしているんでしょうよ」
と、続が無常な評価を下した。

作中で大災害に見舞われる日本に対するものですが、これまた現実の日本に当てはまってしまい、ため息が出ます。


官僚は絶対に責任をとらない。誰かが一度でも責任をとったら、以後、他の者も責任をとらなくてはならなくなるからな。責任をとる官僚は、官僚機構の裏切り者になってしまうんだ。

なーるほど、と納得しているばあいではありませんね。


「みんなに責任がある」というのは「誰にも責任がない」というのと同じだもんな。これ以上の無責任はないよな。

終の台詞、痛烈です。


しかしこの巻、時間にしてわずか2日間のこととは。あまりに内容が濃すぎます。


↑kindle版



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