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不思議ちゃんで、時に哲学者のお父さん~『ぼくのお父さん』(矢部太郎)~

『大家さんと僕』で大ブレイクした矢部太郎の新作です。今度はお父さんとのエピソードを中心に、矢部の子ども時代を描いています。

↑kindle版

率直に言って、『大家さんと僕』シリーズよりは落ちると思います。ところどころ、ちょっとつながりが不明なところがあったりするので。
でもゆるい絵柄は健在だし、実際の話から空想へとするっと移動する、あの不思議な魅力もそのままです。

まるで「鉢かづき姫」のようなお父さんに、まず矢部ワールドに引きずり込まれます。巨大なヘルメットをかぶっているようですが、帽子らしいです。なお蛇足ですが、たまに「鉢かつぎ姫」だと思っている人がいますが、鉢をかづいている(かぶっている)姫ですよ~。かついでも仕方ありませんよ~。

お父さんはかなり不思議ちゃんで、流れるプールに対し、「これは流れるプールじゃない。流されるプールだ。僕は流されない」と言い張って、水の流れに抗して立ち続けたりします(作中では、プールでも帽子はそのまま)。

あるいは、遠足の時に決められた金額以上のお菓子を買ってしまい、「全部もって行きたい!」と泣くお姉ちゃんに、「お父さんが遠足に行けないおやつ達が遠足に行く絵を描いてあげよう!」と提案したら、お母さんに「そんな暇あったら仕事して!」と言われてしまい、お姉ちゃんと一緒に膝を抱えて涙したりもします。

かと思うと、矢部たちに土器を作らせた際、「もみぎり式」、続いて「まいぎり式」の火起こし器で火を起こさせようとし、どうしても火がつかずに諦めたら、「いかに火が貴重かわかったね」と言って、チャッカマンを取り出してしまう調子の良さがあったりもします。

そうかと思えば哲学者のように、矢部たちに「今は便利な世の中で、結果だけを知ることが多いけれど、大事なことは結果じゃなくて過程の中にある」と語りかけてみたり。

この作品は、お父さんが矢部に子ども時代の矢部のことを絵日記みたいに書いていた「たろうノート」を送ってきて、「これ読んで、次は『お父さんと僕』描いたら?」と提案したことから生まれたようですが、安易なようでいて、ナイスな提案だったなぁと、読み終わった今は思います。完成後、一番先にお父さんに見せにいくシーンには、ちょっと涙が出そうでした。

見出し画像には、作中でちょっと重要な役割を果たすつくしの画像を使わせていただきました。



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