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令和7年度大学入学共通テスト「歴史総合」サンプル問題雑感

2021年3月24日、大学入試センターが「平成30年告示高等学校学習指導要領に対応した令和7年度大学入学共通テストからの出題教科・科目について」を発表しました。

その中で「地理総合」「歴史総合」「公共」「情報」の、「サンプル問題」「正解表」「ねらい」も発表されました。私は地理歴史科の教員なので、「歴史総合」について、簡単に分析してみます。


1.「歴史総合」とは

「歴史総合」は今回の改訂で新たに登場した科目で、必修です。近現代の日本史・世界史を学ぶ科目で、現行の「日本史A」と「世界史A」に代わるものです。


「日本史A」と「世界史A」は、古代から現代までを扱う「日本史B」「世界史B」と一線を画し、近現代史を重点的に教える科目です。日本史については小学校・中学校とやってきているので、「日本史A」は近現代史のみとされています。まぁ実際には、小学校・中学校でやったことが生徒の頭にすべて入っているかは、大いに疑問です(^-^;


対して「世界史A」は、「近現代世界を理解するための前提として」(世界史A現行学習指導要領)前近代史も扱っています。中学校の「歴史」は日本史中心で、世界史は日本史の背景として扱うのみなので、世界史については近現代史「だけ」を教えるのは不可能なのです。
よって結局は、「世界史A」のほうが単位数が少ないだけで、「世界史B」と決定的な違いをつけにくいです。近代以前の歴史は駆け足的にと思いつつも、結構時間を取られるので、近現代史に充分な時間を割けないのです。もちろん、個々の学校や教員によっても違うかと思いますが。


「歴史総合」の学習内容は、完全に日本史と世界史の近現代史のみです。学習指導要領によれば、以下のような科目です。

近現代の歴史の変化に関わる諸事象について,世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉え,資料を活用しながら歴史の学び方を習得し,現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察,構想する科目

  ↑高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説・地理歴史編


もちろん個々の歴史的事象についての解説はするものの、生徒が個々で、あるいはグループで調べたり、その成果を発表したり、討論したりという活動が盛り込まれる(理想はそれが中心)科目ということですね。
大変素晴らしく聞こえますが、上記のとおり中学校では、世界史についてそれほど深く学びません。よって近現代のみの世界史は、生徒にとって唐突感があるのではないかという危惧があります。教員にとって、教え方に工夫が求められますね。まぁ実際の教科書を見てみないと、何とも言えませんが。


なお、これまた新科目である「日本史探究」と「世界史探究」は、「歴史総合」を踏まえた上で学ぶ科目とされています。個人的には、「日本史探究」か「世界史探究」をやった上で「歴史総合」をやった方が、理解が深まるだろうにと思ってしまいます。でもまぁ、そういう訳にはいきませんね。


2.大学入学共通テストで、「歴史総合」が関係する試験科目

今回の学習指導要領は、来年2022年度の高等学校入学生から適用されます。よって2022年度高等学校入学生が大学を受験する、2025年度(令和7年度)の大学入学共通テストから、学習指導要領の改訂を踏まえた試験科目が登場することになります。よってこの度、サンプル問題が発表されたわけですね。

地理歴史科の新たな試験科目として、「歴史総合、日本史探究」、「歴史総合、世界史探究」、「地理総合、歴史総合、公共」の設置が検討されているので、サンプル問題の1つに「歴史総合」を入れたのでしょう。なお地理歴史科の試験科目には「地理総合、地理研究」もありますが、これは地理歴史科の中で唯一「歴史総合」が入っていません。


「具体的なイメージを共有するために作成・公表するもの」ということで、本当にこういう感じになるかは定かではないようですが、以下、「歴史総合」のサンプル問題についての雑感を書いてみます。


3.令和7年度大学入学共通テスト「歴史総合」サンプル問題雑感~令和3年度大学入学共通テストの分析と合わせて~

サンプルは大問2問なのですが、面白いのはどちらの大問の書き出しも、「『歴史総合』の授業で」となっていること。つまり、実際の歴史総合の授業を想定して、それに基づき問題を作っているのです。大問1は東西冷戦についての授業中の会話文、大問2は世界の諸地域における近代化の過程について、設定された主題に基づき個人やグループが調べてまとめた内容から、個々の問題を作っているのです。歴史総合の授業は、そういう風に進めていくことを想定しているのかと、教員として参考になりました。


問題の内容はというと、もちろん日本史・世界史両方の近現代史の知識がないと解けないものとなっています。でもどちらかといえば、世界史の知識のほうが、より多く求められる印象を持ちました。日本史の部分は中学校で教わること+αで済む気がしましたが、世界史の部分は、結構しっかり知識を身につけていないと無理だと思います。

近年の生徒は内向きというか、あまり世界史に興味を持たない傾向があります(もちろん学校によっては、日本史選択の生徒より世界史選択の生徒のほうが多い学校もありますが)。
加えて繰り返しますが、中学校では多くの学校では日本史中心に授業を進めています(これまた学校によっては、しっかり世界史に時間を割いていますけど)。そういう意味で歴史総合では、日本史より世界史のほうの近現代史をしっかり教えないといけないのではないでしょうか。


ただ訊かれている内容としては、センター試験より難易度は下がっていると思います。もっともサンプル問題の「作成の趣旨」には、「実際の問題セットをイメージしたものではありません」、「(令和7年度大学入学共通テストでは)適切な分量と難易度のもとで問題セットが作成されることになります」といった但し書きがしつこいほど繰り返されているので、これだけで難易度を判定するわけにはいきませんが。


ちなみに今年(2022年)、初めての大学入学共通テストがありましたが、世界史Bについては、やはりセンター試験時代より難易度が下がった印象がありました。「東京新聞」の出題分析では、逆にセンター試験に比べ「やや難易度は上がった」となっていましたが、センター試験の頃は毎年数問入っていた「そこを訊くの?」と言いたくなるような細かい問題が消え、基本をしっかり押さえていれば答えられる問題ばかりになったと思います。

なお「東京新聞」の出題分析で「難易度は上がった」とされた理由の1つは、センター試験の頃より明らかに読解力が要求されるようになったことにあるのではないでしょうか。丁寧に問題文を読まないと、足元をすくわれるような出題の仕方が増えました。極端に言えば、世界史の力以前に国語の読解力が求められます。今回は、読解力さえあれば、世界史の知識がなくても解けるのではと思わされる問題すらありました。


サンプル問題に話を戻しますと、今年度の問題同様に、あるいはそれ以上に読解力が求められる気がしました。最近の生徒はテスト慣れしているのが裏目に出て、問題文をよく読まずに、条件反射のように答えてしまう傾向があります。

センター試験の頃も、今年度の大学入学共通テストでも、そしてサンプル問題でも、「正しいものを選べ」という問題と「適当でないものを選べ」という問題が混在しています。これを逆に答えては、とんでもないことになりますよね。またサンプル問題では20問中7問が、1つの問題で複数のことを問い、正しい組合せはどれかを訊く問題でした。これも落ち着いて丁寧に問題文を読まないと、下手をすれば足元をすくわれてしまいます。


問題文をちゃんと読むなんて、基本中の基本のはずですが、意外とそれが出来ていない生徒は多いのです。これについては、以前書いたことがあります。


なお、曲がりなりにも世界史が専門の教員ですので、20問全問正解でした、と書きたいところですが、実は1問間違えてしまいました。

20問目が、「授業で追及した主題として適当なもの」と、「その主題をさらに追及するための資料として最も適当なもの」の組合せを訊く問題だったのですが、主題は「国民国家の形成の過程において、どのような施策が採られただろうか」で迷う余地はなかったものの、資料が分からなかったです。

「国際的経済機構の加入国数を示した統計」は違うとしても、「国籍の資格を定めた法律の条文」と「ラジオ・テレビの普及率を示すグラフ」で迷い、後者にしたところ、誤りでした。いや、その前の2問で、国力を上げる手段としての国民への教育が取り上げられていたので、ラジオやテレビもまた、広い意味での教育の手段かなと思ったのです。政府の考えを国民にいきわたらせる手段の1つなので、私ならその普及率が気になります。

でも違ったわけですね。「では『国民』とは何だろう」というほうに、思考を向けることが想定されていたと。ある意味国語の読解と同じで、模範解答は1つでも、誤りとされる選択肢にも、あながち間違いとは言い切れないものが含まれているのかもしれません。間違えた者の負け惜しみと言われれば、それまでですが(^-^;


あと、地図問題もありました。冷戦期のヨーロッパの西側陣営の国と東側陣営の国の塗り分けが正しいものを選ぶもので、ある意味一般教養レベルです。センター試験でも、今年度の大学入学共通テストでも、地図問題は出題されているので、その傾向は続くということでしょう。「地理選択ではないから」といって地理的な事柄をおろそかにしていると、ダメだということです。世界史選択でも日本史選択でも、歴史上重要な都市や河川、山脈などの名称と位置をセットで覚えておく必要があります。



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