第十の覚書

入院患者さんは全員男性であることを除いて、何もかも謎のまま。
プライベートなんだけど、一緒に寝泊まりする人々だとなると、気になって仕方ない。

もちろん年齢も不詳。

ある日、なんとなく自分と年齢が近そうな男性がいるのを見つけた。おとなしそうな人だった。

デイルームでその人を見かけて、とりとめもない話をしてみた。普通に返答は帰ってきた。

だが彼は、突然僕にこう聞いたのだ。「ところで、あなたはクリスチャンですか?」。

なぜこんなことを聞くのかびっくりしたが、常に本を持ち歩いてデイルームでも読書にふけっていた僕。おそらくテーブルにそういった類の本が紛れ込んでいたのだと思う。

「いいえ。興味は持ってるんですけど」。

なんでも、その人は病院から近郊にある都市の、あるプロテスタントの教会に属している信者さんらしい。

プロテスタントのクリスチャンなので、PCさんと呼ぶことにしよう。

「PCさんは、今おいくつなんですか?」
「37。。。いや40。。。」

「この病院にはどれくらいいらっしゃるんですか?」
「3年。。。いや5年。。。」

どうも記憶が曖昧らしい。内心失礼だけど、(この人も「ダメ」か)と思ってしまった。

少し話題を変えて、「僕、絶望してるんです。ここでの生活も、将来も。どうすればいいんですかねえ」と聞くと、PCさんはうつむきながら、しかし真面目な言い方で僕に答えた。

「どんなときでも、イエス様がそばにいてくれるから」

(そうか。この人は立派なクリスチャンなんだな)
僕はPCさんのことを思い直し、Tさんら数少ない「会話ができる人」として、大事な仲間だと思うようになった。

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