第八の覚書

ある日の夕食時でのこと。

食事は一応朝、昼、夕と出る。デイルームで集合して食べるので、個食は許されない。
テレビも消せと言われ、食べる前にみんなで「いただきます」を言う。
まるでガキのような扱いだ。

一般病棟でも入院したときによく見る、あの食事が入っているケース。
看護師さんがデイルームの中央に運んできて、一人一人名前を呼ばれて取りに行く。
(一応アレルギー持ちや高齢の人に配慮して、間違いがないようにしているらしい)

「○○さん。おかえりなさい」。

ん?「おかえりなさい」ってどういうことだ?
初めて見る顔だ。

どうやらこの人、以前にもこの病院に入院していたらしい。
(複数回出入りを繰り返す人も珍しくないらしいが)

夕食後、Tさんと一緒にその人と会話をしてみた。なんでも、かつて自衛隊員をやっていたらしい。
ゆえにMJ(元自衛隊員)さんと名付けよう。

ここでの個人の話をどこまで信用していいのか、少しずつ分からなくなっていた僕だったが、「この人は『嘘』をついていない」という確信は持てた。
会話のキャッチボールもできるし、奇想天外なことや支離滅裂なことを言っているわけでもない。

ふいにMJさんはこう言った、「ワシ、家がないんや」。

なんでも病院の近くに自宅があったが、家庭内で何らかの不和があり、自宅に帰れない状態になっているらしい。野宿するわけにもいかず、以前にも入院していた病院に再入院することにしたらしい。

帰れる家がないという意味では自分とも少し似ている(このへんのことは、また気が向いたら書く)が、病院は行き場がない人の為の施設ではないと思うのだが・・・。

MJさんは一見、そんなに大柄でもない。まあ至って普通のおじいさんという感じ。
だがたまに行く作業療法で、真相が判明した。
野球や卓球、なにがしかスポーツらしきものをすれば、MJさんは次々に対戦相手をやっつけてしまうのだ。

元甲子園児のTさんの上を行くかという、運動神経の良さ。やっぱりこの人は嘘をついていない。
そう確信した僕は、少しずつだが「なんとか会話ができる人」を増やしたいと思った。

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