第二の覚書

そんなTさんが僕以外に気にかけていた人がいる。
やせ型で、院内を移動する際は車いすを使っている。
一見温和そうなおじいさん。
しかし、眼には鋭い眼光を宿している。

お風呂は週に三回。決まった曜日に同じフロアの患者がいっせいに入る。
その人を見てはっとした。背中一面に立派な龍を飼っているのだ。
温和そうに見えて鋭い眼光の理由はこれか。合点がいった。

以下、この人のことはSRさん(背中に龍)とでも呼ぶことにしよう。

僕は昔、学校になじめない生徒だった。陰湿ないじめにも合い、不登校になっていた時期もある。
そんな自分を守ってくれる人が何人かいた。不思議と彼らは、ヤンキーだった。
男子も女子も。

Tさんもいろいろと話を聞けば、まあヤンキーの域を通り越している。十代の頃はサツのお世話になったこともしきり。
SRさんに至っては、サツの敵を生業としていた人だという。あな、おそろし。

そんなSRさんもいつしか、新入りの僕と仲良くしてくれるようになった。
だが眼は相変わらず鋭い。仲良くしていいのか、悪いのか。僕は自分が分からなくなっていた。

ある日。フロアに二紙しかない新聞の広告を何人かが食い入るように見ていた。
その中にはSRさんの姿もあった。

広告は古のロック・スターの姿が。何年かぶりの来日だという。

「これ、ポールマッカートニーですよね?」

僕が言うと、SRさんの鋭い眼光が一瞬緩んだ。

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