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【LGBTQ+】 服装指定:スカートスーツ着用の文字



※服装指定:女性社員はスカートスーツ着用


 数年前のこと。新入社員として第一志望の会社に内定が決まってから来たメール。そこにはそのように書いてありました。


どうしよう、スカートなんて履きたくないのに。
成人式のときだって振袖を着るのが嫌だという理由で参列しなかったぐらいなのに。


でも、今回は仕事だから仕方がないと自分に言い聞かせて、自分の気持ちに合わない服装で出席しました。でも、それと同時にどうしてこの時代に「女性はスカート」という強制に従わなければならないんだろうとも思っていました。




「新しい時代に! 輝く女性!」

 就活生に向けて開催される会社説明会。そこで配られたパンフレットには、女性の躍進を後押しするようなそんなような文言がデカデカと印刷されていて、新卒として就職活動真っ最中だった私はその文言を採用した会社の方針に惹かれました。



もちろん、それ以外にも専門性だったり色んな現実的な事柄を考えたりして就職先を最終的に決めたのですが、女性の活躍を会社が応援しているその社風に惹かれたというのも大きな理由の一つでした。



でも、内定後に新入社員の研修内容が記載されたメールには「女性社員はスーツスカート着用指定」の文字があった。それに違和感を抱かない人もいるのだろうけれど、私はそれがとても苦に感じてしまったのです。



悩んだ挙句の当日

 スカートでなければならない理由ってなんだろう? と思いながらも、統一性が必要なのかな、などと思考を巡らせてみても真相は分からず仕舞い。結局、私は嫌だなと思いながらも封印していたスカートスーツを引っ張り出してきて、当日はメールにあった文言通りにそれで出席しました。



ストッキング、パンプス、スカート


どれも私は着たくないのに。



当日、本当にその服装指定に従わなければならないのか、果たしてその理由とはいったいなんなのかを、ベテラン社員さんにさり気なく聞いてみることに。すると、その会社では昔から受付業務の担当者はスカートスーツ着用義務になっているとのこと。


古い体質だなぁと密かに思いながら、私は受付業務の担当ではなかったので「受付担当でなければ、スカート着用でなくても良いですか?」と尋ねると、大丈夫だと思うよとのことで、私は翌日からパンツスーツで出席しました。


入社前の会社説明会

 まだ私が就活生として、その会社の説明会や面接などに参加していた際には、普段の出社時の服装はオフィスカジュアル、フォーマルな場面ではスーツ着用と聞いていました。さらには、大きな式典などでは動きやすいようにパンツスーツを着用することが多いと聞いていたのに。また、CAさんのように決まった制服があるような職場でもありませんでした。

ここでは業種などを詳しく書いていないので、服装が仕事内容にどのように影響するのか判断し辛いかと思いますが、入社してからこの会社で働いていた期間ずっと、スカートでなけらばならない理由を私は見つけられませんでした。




先輩社員から聞いた理不尽な話

 入社してまだ間もないころ。新入社員と先輩社員の交流を深めるランチ会が開かれ、そこでは3年目と8年目の先輩たち(どちらも女性)とランチを食べながら親睦を深めて、これからのために聞いておきたいことや仕事内容などをざっくばらんに話して良いよというものがありました。



私たち新入社員はまだ部署配属前の研修中という身分だったので、リクルートスーツで出社する子は少なくなっていたとはいえ、まだほとんどがセットアップのスーツにカチッと身を包んでいました。私もパンツスーツ(レディーススーツのなかでもストンとしたユニセックスなデザイン)を着用していて。ただ、周りの先輩社員たちはオフィスカジュアルといった感じのこなれた服装をしているので、切り替えるタイミングや普段の出勤の服装などについて、他の同期が先輩に質問を投げかけました。



すると、普段はオフィスカジュアルでいいけれど、相手先に伺う際や社内で取引先と会議をする際などに備えて、フォーマルなジャケットやヒール靴を会社に置いておいたほうが良いよとのこと。「たしかロッカールームに空いてるハンガーがあったから、あとで会社に帰ったら案内するね」と優しそうな8年目の先輩は、にこやかにお世話をしてくれました。

でも、その先輩がふと「そういえば私、それこそ入社1年目のときに先輩に付き添ってお得意様の会社に行ったんだけど、相手先の偉いおじさんから女性がパンツスーツとは何事かって怒られたことがあったの」と話し始めたのです。



3年目の先輩「ええっ、そんなことあったんですか」
8年目の先輩「うん。たぶん古い体質の会社なんだろうね。その人もいかにも頑固おじさんって感じの人。男尊女卑というか、それ問題発言ですよーってこと未だにいっぱい言ってて、昔からのお得意様だからいつも『いまの時代はそんなことないですけどねー』ってそれとなく諭してるんだけど、火に油注ぐような感じになって。そういえば、隣にいる秘書の人も、いつもピタッとしたスカートスーツに高いヒールでお茶汲んでくるし。一日中、その高さのヒールは辛いだろうなぁって思いながらも背筋ピンッってしてて凄いの。いま私が主にそこ担当してるんだけど、だから行くときは絶対にスカートスーツと高いヒールに履き替えて行くようにしてる。○○ちゃんは、今までにそんなこと言われたことない?」
3年目の先輩「それはさすがに言われたことないですね……」
8年目の先輩「そっか、じゃあやっぱり特に○○系は古い体質が根深いのかもね。まぁそんな相手もいるから、私の部署配属になったら気をつけたほうが良いかも」
同期「はい……」


その話を聞いていた3年目の先輩も、私たち新卒生たちも「え、」という反応で、いまだにそんなことがあるんですね、といったことをその後に話した覚えがあります。


結局、私はその先輩がいる部署には配属されなかったので、スカート着用を強制される場面はそれ以降はありませんでした。


ただ、その話を聞いてからというもの、その先輩がスカートスーツで出社してきた姿を目にするたびに、また、指定の時間になったら社内で慌ただしくローヒールのパンプスから高いヒールへと履き替えて、グラグラと歩きにくそうな足元で取引先に急ぐ姿を目にするたびに、今からあの取引先に行くのだろうなと意識するようになりました。



パソコンや書類、様々なサンプル品などを入れた重たそうなカバンを肩にかけているのに、タイトスカートのせいで歩幅は小さくしか開けず、さらには高いヒールで取引先へと急ぐ先輩の背中。


その後ろをついていく男性社員は、動きやすいパンツスーツに歩きやすいフラットな革靴。


私がこの会社に新卒生として入ったのはもう数年前のことなので、その先輩がその発言を経験したのは約10年ほど前のことだったと思うのですが、未だにこういったことは起きていることに当時の私は驚きました。


だって、そんな時代はもうとっくに過ぎたのだと思っていたから。
さらには大企業でそんなことがまだあるだなんて思いたくもなかったから。



女性はタイトスカートに高いヒール、受付、お茶汲み



間もなく、独立するために私はこの会社を辞めたのですが、退職日が決まったとき同期の子たちにスカートスーツを全て譲りました。おそらくそこの会社にいる以上、スカートスーツを必ず着用しなければならない機会は多くあるだろうから。



「こうあらねばならない、なぜならば昔からずっとそうだから」という強固な固定概念だったり、「こうしなさい、私だってこうしてきたのだから」という理不尽な押し付けだったり(※先輩のことを言及しているのではありません)、「女性はこうあるべき、男性はこうあるべき」といった性役割(ジェンダーロール)を強制させられることのない世界に、そんな時代の進化があるといいなと思った出来事でした。


性役割またはジェンダーロールとは、その性別に、社会的に期待されている役割のことである。 例えば、「男だから、めそめそしない、」「女だから、おしとやかにする」などの行動規範に従って行動するとき、その人物は性役割を演じているとされる。
ウィキペディア「性役割」から一部引用



男の子だから、男らしく。
女の子なのだから、女らしく。

どうか、そんな言葉がもっと少なくなっていきますように。
そして、そんな言葉に苦しんでいる人たちがもっと少なくなりますように。

時代が進むにつれて、人々の考え方も柔軟になると良いな。

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