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プレミアリーグ第16節 フラムVS.マンチェスター・ユナイテッド レビュー

 劇的勝利。あのお方のような絶望的な上手さがあるかといえばそうではないかもですが、ガルナチョのメンタリティは若い日のスーパースターのそれに通ずるものがある気がしますね!
 ただ、勝利したとはいえ、前半はほぼ互角。後半はフラムのペースが長く続く試合で、内容的には課題の多い試合でした。今回は試合の動向をレビューしながら、引き続きプレッシングの課題について改めて言及し、「GK-CB-SBの3オンラインとサイ」と「IHとWGのポジションチェンジ」というユナイテッドのビルドアップのパターンの1つを紹介したいと思います!

①スタメン

Ⅰ.両者のビルドアップ 個人と配置とパターンと

1⃣ユナイテッドのプレスを外すフラムのビルドアップ

 今季自分が見たリヴァプール戦ではかなりロングボールを多用していたイメージのあるフラム。この試合もロングボールを多く使ってユナイテッドにボールを持たせるのかと思いきや、低い位置からのショートパスによるビルドアップを試みてきた。さらに、それはしっかりとユナイテッドのプレッシングに刺さっていた。

②フラムのビルドアップ(概念図)

 少し書き込みすぎて見づらいかもしれないが、②がフラムのビルドアップを表した概念図になる。基本的な型は第11節で対戦したニューカッスルと同様、SBが幅を取り、WGが中のパスコースでボールを持つ「ドイツ式4-3-3」といえる。
 ユナイテッドの1トップに対してGKと2CBで3対1の状況をつくり、両CBが広がって「HS(ハーフスペース)の入口」でボールを受けられるようにしたところからスタート。そこから、ボールを持つ「時間」を得たCBがユナイテッドのWGと3センターの間にできたスペースでボールを運んだり、相手ダブルボランチ(ユナイテッドの中盤はマンマーク気味なので、②の場合ブルーノとカゼミロ)に対する数的優位を作っている中央のWGとCHケアニー、OHペレイラにボールを供給することで前進を図る。基本的にアンカーから前の選手はボールを引き出すために列を下りる動き繰り返すので、CFもビルドアップに列を下りる動きで絡んだり、最終手段としてのロングボールの的になったりもしていた。

③フラムのビルドアップ(具体図)

 意図的か、偶然かはわからないが、フラムのビルドアップはユナイテッドによってほとんど左サイドに誘導されていた。しかし、左CBリームからの展開は安定しており、③のように相手WGエランガと相手OHブルーノの間にできた"門(パスコース)"を通してWGのウィリアン⇒CHケアニーと(レイオフで)繋いで相手のアンカー脇で前を向くことに成功し、その後のCK獲得につながるビルドアップができている。
 このようなCBリームからの展開で24',28'と前進に成功している他、左SBロビンソンの展開から22'にもユナイテッドの同数気味のプレッシングを剥がすことに成功している。
 前半のボール保持率はFUL53%:MUN47%とフラムのビルドアップはユナイテッド相手に機能していたといえるが、ユナイテッドの先制点が決まったのもこのフラムのビルドアップからの局面であった。
 14'の上記同様CBリームからの局面。ここはユナイテッドのCKからの展開だったため、ユナイテッドのダブルボランチの右がカゼミロ、左がブルーノという状況になっており、CBリームがCF-WG間に見出したパスコースからCHケアニーにボールが渡ったところで、ユナイテッドはエリクセン、エランガのプレスバックとマーカーのカゼミロのタックルでボールを奪い、ショートカウンターから最後はエリクセンが押し込んで得点を取っている。(やっぱりカゼミロ個人の守備への影響力ってすごいなぁと思う…)
 ユナイテッドのプレッシングは(1)ボールを奪ったときに両WGが相手SBの背後にいること(2)相手の攻撃を中央に追い込むためボールを奪った場合にゴールに近い中央のエリアから速攻を仕掛けられることなど、リスクが高い分、ボールを奪った際の速攻に長けたプレッシングでもある。自分がいつも「ハマらないから、(WGを絞らせるor2トップにして)サイドに追い込むようにした方がいい気がする」と思うこのプレッシングも、"超攻撃的サッカー"を志向するテンハグにとっては得点を奪うために変え難いプレッシングのかたちなのかもしれない。この得点を見ると、同じプレッシングの型のまま練度が上がるのを待つべきという意見もありそうですが、皆さんはどう思いますか?(投げやりw)

2⃣ユナイテッドのビルドアップにおける配置とパターン

 今度は、"ユナイテッドのビルドアップVS.フラムのプレッシング"の局面。開始10分の間に1',2',4',6',9'と再三フラムのプレッシングに捕まったユナイテッド。ただ、そこから完全にとは言わないまでも、相手の4-4-2プレッシングに徐々に対応し始めたユナイテッド。
 ここではこの試合におけるビルドアップだけでなく、ここ最近のユナイテッドのビルドアップに見て取れる1つのパターンを紹介したい。

④ユナイテッドのビルドアップのパターン1
⑤ユナイテッドのビルドアップのパターン2

 まずは、ゴールキックからボールをいいかたちで相手の守備ブロックの脇(いわゆる5レーンでの"ハーフスペース"あたり)に供給するところから。ここでは、サッリナポリの代名詞ともいえる"3オンライン"と"(フットサル発祥の)サイの動き"が用いられている。僕がこれを知ったのは、かの有名な鳥の眼氏のサッリナポリの分析記事。記事冒頭にてわかりやすすぎる説明がなされているので、そこを参照していただけるといいかと思います。
 ここで簡単に引用させていただいて説明すれば、"3オンライン"とは3人の選手が一直線上に列をなして並ぶ状態のこと、そして"サイ"とはそのうちの真ん中の選手がその直線から抜ける動きをすることです。
 ユナイテッドでは④のようにGK-CB-SBの"3オンライン"を作った状態でゴールキックをCBから始める。そして、CB⇒GKと繋ぎ、CBの"サイ"の動きを発動(⑤)。これによってボールにプレッシャーを掛ける選手(ここではフラム右WGウィルソン)は、CBに付いていくか、ボールにプレッシャーを掛ける場合はCBへのパスコースを切るか、SBへのパスコースを切るのかの"選択"を迫られる。このシーンでウィルソンは「ボールにプレッシャーを掛けずに、CB(リサンドロ)、SB(ショー)の両方のパスコースを規制できる立ち位置を取る」という"選択"をする。それを受けて、ユナイテッド側は余裕をもってボールを持つデヘアからロブパスによってショーにパスを通すことで、相手のブロックの脇にボールを運ぶというビルドアップの1段階目を完了させることができている。

⑥ユナイテッドのビルドアップパターン3
⑦ユナイテッドのビルドアップパターン4

 そしてそこからは、もう1つのパターンである「IHのサイド流れ(IHとWGのポジションチェンジ)」。SBが大外でボールを持ったときに4-3-3のIHにあたる選手(この試合ではエリクセン&ブルーノ)が⑥のようなサイドに流れる動きを見せることで、それをマークする相手CHはサイドに向かってその選手に付いていくorそのままステイするというこれまた"選択"を迫られることとなる。
 このシーンではショーがボールを持った際のエリクセンのサイド流れに対してマーカーとなる相手CHパリーニャはエリクセンに付いていったため、もう1枚の相手CHケアニーとの間にぽっかりと大きなスペースができることになる。本来ここで多いのは、その相手CH間のスペースにボールサイドのWG(ここではラッシュ)が入ってくるパターンだが、ここではフラムの素早いプレッシングと制限の影響でユナイテッド側はその「時間」がないため、それができていない。
 ただここで終わらないのが今のユナイテッド。約束事通りに高い位置から下りてきたラッシュにサイドに流れてボールを受けたエリクセンがフリック。⑦のようにそこからのワンツーで相手CH間のスペースでエリクセンがボールを受けると、逆サイドの右WGエランガが裏を狙う動きで相手DFラインをピン留め、そしてマルシャルは列を下りる動き、ブルーノは下がったラインに対して立ち止まることでエリクセンとの三角形を作りだし、フラム側の選手のプレスバックがあるとはいえ、スライドしてきた相手CHケアニーに対して3対1の数的優位を生み出す。相手CHケアニーがマルシャル側のパスコースを切ったため、エリクセンがブルーノにパスを預けたことで「後方からのビルドアップ」は完了。
 ちなみにそこで前を向いたブルーノから大外のエランガに展開した後、最終的にマイナスで再びボールを受けたブルーノから対角のクロスで、オフサイドとなったラッシュフォードの決定機を演出している。

⑧ユナイテッドのビルドアップパターン5(理想形)

 ⑧のようなシーンは(動き出しとしては0:00~1:18~のビルドアップ局面で確認されているものの、)ビルドアップが成功した場面が実際にあったわけではない。ただ、他の試合でもこのパターンは再三行われており、上述したように、チームとしてIHのサイド流れと連動してWGが相手CH間のスペースに入ってくる"(SBがボールを持った際の)IHとWGのポジションチェンジ"は1つのパターンであることは間違いない。
 ⑥・⑦で見たシーンはその応用型または派生形である。基礎が出来なければ応用は成立しないわけで、"GK-CB-SBの3オンラインとサイ"を含めてユナイテッドのビルドアップが明確な原理原則(「ひし形をつくるルール」など)といくつかのパターンによって着実に再現性を持ったかたちになっていることが伺える。実際この試合でも、ミスによってボールを奪われたシーンもあったものの、21',34',36',42',45',56',60'にそれらのパターンが確認できる。
 試合の本質からは少し離れたが、ユナイテッドの守備がこの前半戦で安定しているのには間違いなく、この「ビルドアップの安定による相手のショートカウンターの発動機会を減らす」ということが影響しており、今季のユナイテッドを語るうえで外してはいけないポイントである。
 ぶっちゃけた話、ユナイテッドでこういう要素が見えてきてずっと書きたいと思っていたので書いちゃったというのが本音ですが…(笑)特に上記した20:03~とひし形の頂点が変わる35:29~あたりは必見です!

Ⅱ.フットボールにおける後半45分の意味

1⃣ユナイテッドのプレッシングの修正の効果

 ビルドアップでは完成度が日に日に上昇していくユナイテッドだが、プレッシングは定番となりつつある相手の「DFが外張って内側に空間をつくる」という対策にこの試合でも苦戦していた。この点をフレッジ投入などの"人"で解決することも多いテンハグだが、この試合はプレッシングの型そのものにメスを入れていたように見えた。

⑨後半のユナイテッドのプレッシングの修正

 後半のユナイテッドのプレッシングの修正は単純明快。相手CBがボールを持った際のボールサイドのWGの立ち位置を中に絞らせるということだ。ボールを内側で挟み込むかたちからボールをサイドに誘導するように変更したのである。
 これによってフラムのCBは、⑨のようにユナイテッドのWG-IH(ここではブルーノ)にできた"門"を通すことができず、ボールをサイドに迂回して前進を狙うしかなくなる。ユナイテッドの1点目のシーンのようなリスクは伴うものの、ボールを一気に前進できた前半と打って変わって、相手のプレッシングの変化に対応する必要に迫られたフラムは誘導されたサイドからの前進を機能させることはできなくなっていった。結果としてユナイテッドは51',54',56',57'にプレッシングに成功した一方、フラムが後半最初にショートパスによるビルドアップを成功させるのは61'となっている。
 実際、⑨に該当する50:12~シーンでもいままで内側に入ることが基本となっていたWGウィリアンが個人のアドリブ的判断で外に張ったままのポジショニングをとり、ユナイテッドは守備ブロックをずらされることなく、相手左SBロビンソンの苦し紛れのドリブルを奪うことに成功している。

⑩フラムの60:22~のGKからのビルドアップ[DJの交代の反映忘れてました(´;ω;`)]

 ただ、その流れが続いたのも⑩のフラムが後半最初のビルドアップに成功した60:22~までだった。
 恐らく、柔軟に立ち位置を変える相手の中盤に対応する意図のあったマクトミネイの投入によってプレッシングにさらにテコ入れを行うユナイテッド。一方フラムは、(必然か、偶然か、)DJ投入後初めてのフラムの低い位置からのビルドアップにおいて、前半で機能していたCBからの展開ではなく、⑩のようにGKを始点とした展開から前進に成功する。その後も、(SBへのロブパスも含めた)このようなGKからCBを経由しない展開は、成否問わずほかにも69',70',88'に見られており、フラムの選手の中である程度相手のプレッシングの変化を消化して、その弱点を突くビルドアップを(感覚的に?)増やしていったといえる。
 そして、フラムの同点弾は⑩の60:22~のビルドアップからの崩しを自陣深いエリアで奪ったユナイテッドのカウンターに対するクロスカウンターでの得点であった。このゴールは多分に偶発性を孕んだゴールであることは間違いないが、このゴールでユナイテッドの選手の集中の糸が切れたのか、ここから試合は完全にフラムペースとなる。
 ユナイテッドは、プレッシングでボールを奪いかけてもミスによってボールを明け渡したり、(前半からの狙いによる癖からくるものなのか)単調なロングボールでボールを相手にプレゼントしたりとガルナチョを投入する72'くらいまではほとんど相手からボールを奪えず、自陣に押し込まれる展開となった。ガルナチョ投入後は落ち着いてボールを持てるようになったユナイテッドだったが、3-1-6のような配置で殴るユナイテッドに対してA.ペレイラのアドリブなのか、4-1-4-1のようにもみえる配置になるフラム。ユナイテッドはほとんど攻め手を失った。
 最後までユナイテッドを苦しめたフラムでしたが、ロスタイムのロングカウンターで万事休す。ユナイテッドからすると、ほぼ引き分け(下手したら負け)ゲームで勝ち点3を獲得した格好となり、W杯ブレーク(?)をいいかたちで迎えられそうである。
 
 あれだけ前半は戦術的な展開になったこの試合が動いた後半の2得点はどちらも偶発性を多く孕んだロングカウンターから。各選手、監督が相手のやり方を理解した後半は、選手個々の慣れや監督の修正によって、どちらのチームの「ボール保持」や「ボール非保持」という2つの"静の局面"からは得点が生まれにくくなる。そうなったときに「ポジティブトランジション(守⇒攻の切り替え)」と「ネガティブトランジション(攻⇒守の切り替え)」という2つの"動の局面"が重要となる。この試合では、パリーニャの活躍もあってカウンタープレスを機能させ、トランジションの2局面を支配していたフラムだったが、最後の最後でトランジションによって得点を奪われた。
 フラムとユナイテッドの後半の2つの得点。この偶発性こそが、人と人がプレーして勝敗を決するスポーツとしてのフットボールの魅力であり、前半の盤上の戦いを超えた先の後半の45分の意義といえる。何が言いたいか自分でもわからなってきたが、このことを新規顧客層が多く観戦するであろうW杯期間において自分に対して肝に銘じておこうかと思う(笑)

2⃣ひとこと

 ここまでリーグ戦14試合、EL1試合、PSM5試合、計20試合テンハグ・ユナイテッドのレビューを書いてきました。ネタ切れ感もありつつ、公約通りのリーグ戦全試合レビューに向けて前半戦を折り返しました(笑)。
 もちろん若干の義務感もありますが、毎回試合を局面ごとのメモを取りながら見直して、メモしたシーンをもう一度見ながらnoteを書いてってやると、嫌でも今回書いたようなユナイテッドの原理原則やビルドアップのパターンが見えてきました。今回紹介した"GK-CB-SBの3オンラインとサイ"含めて、そこにはアヤックスからの継続的な要素も多いですし。
 それとは別で、今回のプレッシングでの修正のようにユナイテッドが試合ごとに新しい「ネタ」を提供してくれたり、ユナイテッドの相手が様々な「ユナイテッド対策」を披露してくれたりするので、毎試合とても価値のあるものを見せていただいているなと思います。
 ロナウドの一件でチームは大揺れですが、このチームの成長は止まらないでしょうし、後半戦もまたパワーアップした姿、試合ごとの向上を見せてくれると思うので、あまり心配はしていません。後半戦も素晴らしいチームを見せてくれることは間違いなしですね!!では。

 ちなみにW杯の推しはオランダとデンマークです。レビューはかけないと思いますが、図使ったリアタイツイートはしようかなって思ってます。ここのコア読者様にはまじでこの2チームおすすめだと思います。ユナサポ的にも、マラシア、エリクセンいたり、あれだけテンハグが欲しがったティンバー、フレンキーの凄さが代表みるとわかります(笑)
 その2チームの中での推しメンは、マイナー好き野郎として、デンマークはWGスコフ・オルセン、オランダはCHコープマイネルスですね。W杯の話になると、まだあと1万文字ぐらい書きそうなので、この辺でやめときます(笑)。 今度こそ、では。

タイトル画像の出典
https://www.football.london/fulham-fc/fulham-vs-manchester-united-live-19662669


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