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プレミアリーグ第14節 マンチェスター・ユナイテッドVS.ウェストハム

 またしてもウノゼロ。今季3度目のウノゼロでの辛勝、さらに終盤は危ういシーンの連発で心臓バクバクでしたね。ただ、デ・ヘア中心に今季の熱血守備陣がいつも通り奮闘してくれました。今回もそんな試合の全体を俯瞰してレビューしていければと思います!

①スタメン

Ⅰ.前半の両チームの構図と攻防⇒MUNペース

1⃣ウェストハムの守備プラン=4-4-2ゾーン

 この試合の前半のウェストハムは、露骨なほど高い位置からのプレッシングをするというよりは、ミドルサードから徐々に相手の攻撃に規制を掛けるスタイル。そのエリアでサイドに追い込んで囲って奪い取れれば御の字、奪えなくても撤退する(ゴール前にリトリートする)から気にしないよというスタンスだった。

②ウェストハムの守備(ボール非保持)時の振る舞い(概念図)
③ウェストハムの守備(ボール非保持)時の振る舞い(具体図)

 ウェストハムは守備の基準点を②のように置き、具体的には③のような振る舞いをする。一言でいえば、ベーシックなサイド誘導の4-4-2である。
 OHダウンズとCFスカマッカはときに縦関係になることもあるが、基本的にはこの2枚で相手のCB&アンカーを抑えるタスクを担うため、左右のしがらみのない2トップといっていい。彼らの重要な役割は相手CB→相手アンカーカゼミロへのパスを絶対に通さないこと。したがって、2トップは相手CB間のパス交換は許容しながらも、CB→カゼミロへのパスコースを抑えながら相手CBにプレッシャーを掛け、サイドの限定を繰り返し行っていた。
 そして2トップから後方の2ラインは縦横のコンパクトさを意識して、②の基準点にしたがってマーカーを設定し、ときには受け渡しも柔軟に行いながら、ライン間にパスを通させないように中央のパスコースを固めてサイドに誘導する。
 上述したように、このプランに明確にどこでボールを奪うというかたちは見えにくい。相手の攻撃をサイドに追い込んで(相手の攻撃の加速を防ぐことで)失点のリスクを低減させながら、その追い込んだサイドでボールが奪えればベストといった具合だろう。そのため、プレッシングが成功したのは相手のパスミスがあった21'、スローインからの展開の25',相手のバックパスをスイッチに同数気味にプレッシングを行った29'のみである。ただ、先制したユナイテッドの前半のxG(ゴール期待値)は0.63であり、ユナイテッドもこの守備に対してスローダウンさせられ、思うように攻められていなかったというのも事実である。前半のxGは0-0で折り返してもおかしくなかったということを意味し、ウェストハムの「激しいプレッシングをしない」という選択が必ずしも間違いではないということはいえるかもしれない。

2⃣ユナイテッドのボール保持=ひし形を作れ!!

④ユナイテッドのボール保持[基本形]

 それに対するユナイテッドのボール保持の基本形は➃のようなかたち(2',27'が該当)。フォーメーション表記すれば、2-1-7といえる。少しビルドアップ隊の人数が少ないようにも見えるが、これがテンハグ流。状況に応じて、両SB&エリクセンがビルドアップのサポートに入るが、基本的にはGK+2CB+アンカーのひし形で相手2トップに対する4対2の状況を作り、ビルドアップを試みる。このとき、前線の選手が相手のDF・MFのライン間で様々なアクションを起こすが、できるだけ相手のDF・MF間よりも後方(自陣側)に下りる動きは行わない。これは相手を引き出す動きが減るためビルドアップが円滑に行われなかったり、ボールを奪われる危険性が増したりとデメリットもあるが、テンハグのチームはそれよりもその下りる動きによってビルドアップ隊のスペースを減らさずに、前線でのアクションを増やすことを優先させることでの前進を試みる。

⑤ユナイテッドのボール保持[アンカーの列を下りる動き]
⑥ユナイテッドのボール保持[斜め後ろのサポートと3バック化]

 ただ、ユナイテッドもGKデ・ヘアがビルドアップに参加できないエリアまで侵入すると、前線の選手が後方に下りる動きを見せる。それを表したのが⑤と⑥だ。⑤はアンカーカゼミロの列を下りる動き(サリー)で相手2トップに対して3バックをつくり、カゼミロのいたアンカーポジションにはもう1枚のCHエリクセンが下りてきて、これまたひし形をつくる(4',11',31'が該当)。⑥はユナイテッドのCBのプレー原則の一つとなっているもう1枚のCBに対する斜め後ろのサポートを行うポジショニングを利用し、その空けたスペースにCHエリクセン(もしくはどちらかのSB)が落ちることによって3バック、ひし形を形成するかたちだ(8',12',18',21',23',42'が該当)。ちなみに相手を押し込んだときはこの配置になることが最も多い。➃、⑤、⑥すべて考え方は同じで、相手の2トップに対して3-1のひし形のかたちをつくるということだ。
 この「ひし形ルール」によって、ユナイテッドのボール保持は安定して前進することができ、(撤退守備もOKという姿勢とはいえ、)なるべく相手の攻撃の前進を阻みたいウェストハムを苦しい状況にさせることができていた。特に、この「ひし形ルール」の根底にあるユナイテッドのプレーモデルがつまったビルドアップで相手の激しい同数気味のプレッシングを剥がし切りそうになった28:28~のゴールキックからのシーンは秀逸で、ユナサポ感動間違いなしの必見の局面である。

3⃣ウェストハムの配置の工夫とユナイテッドのプレッシング

⑦ウェストハムのボール保持・ビルドアップ

 一方のウェストハムのビルドアップ、そしてボール保持。そこにはユナイテッドのマンツーマン気味のプレッシングを剥がすための工夫がみられた。それが⑦のような選手の移動、ポジションチェンジである。ボール保持時はライスをアンカーとした4-3-3気味に振舞うウェストハムだが、そこからCBがボールを持った際には、そのボールサイドのSBが高い位置をとり、WGは中央の相手ダブルボランチ脇に侵入する。そしてそのSBが開けたスペースにはアンカーのライスが流れ、アンカーがいた中央にはIH気味に振舞うソウチェクが下りてくる。
 このポジションチェンジによって、アンカーのライスをマークするユナイテッドのOHブルーノは、中央のソウチェクとサイドに流れるライスのどちらをマークするかという「選択」を迫られる。ブルーノがライスについていけば、CB→ソウチェクのパスコースが空き、それを警戒して中央を締めれば、サイドで"ライス+SB+WGVS.相手SB+相手WG"という3対2の数的優位で、サイドからの前進がしやすくなる。このポジションチェンジに相手が対応を試みたとしても、一瞬の迷いや判断ミスが守備のズレを生み、それがビルドアップの起点となる。これがまさにウェストハムの狙いであった。

⑧ユナイテッドのプレッシングでのマークの受け渡し

 ただ、ウェストハムがその"アンカーのサイド流れ"という再現性のあるかたちから前半でビルドアップできたのは、10',26',45+1'のみで、そのうち10'はミスで最終的に相手にボールを奪われ、26'と45+1'はいずれもスローインとFKとなっており、前進はできたものの、攻撃がスローダウンさせられる結果となっている。
 そこには、ユナイテッドのプレッシングの洗練されてきたマークの受け渡し術がある。ユナイテッドは相手のポジションチェンジに対して、⑧のようにWGが相手SBに釣られないように意識することで、4-2-1-3という配置をできるだけ崩さないようなマークの受け渡しを行っており、(完璧といえないまでも、)配置のズレが生まれないように対応できていた。ユナイテッドは6’,15'(1),15’(2),32’とこのプレッシングからボールを奪っており、6',15'(1),15'(2)ではいずれもチャンスにつながっている。そして、34:13~のウェストハムのPA付近でのFKから始まった相手のビルドアップにプレッシングで圧力を掛けて、最終的に相手GKにロングボールを蹴らせ、そこを回収。その奪ったボールで仕掛けた速攻からCKを獲得すると、それがFK、その後深いエリアでの相手のスローインに。そのスローインを37:00~のマイボールのスローインにつなげたユナイテッドは、そこからの崩しからこれまた最後はスローインから得点を奪っている。

⑨37:03~得点シーンにつながるスローインからの崩し

 ちなみに、37:03~の得点シーンにつながる崩しでは、ボールホルダーのリサンドロに対して、ひし形のパスコース、そして相手の4枚の中盤の間にできる「門(パスコース)」に各選手が配置されており、ここでもユナイテッドの今季の成長を感じる。
 このように、ボール保持、ボール非保持両面でユナイテッドはある程度の主導権を握れており、前半はシュート数も9(3):3(0)と大きく内容面でリードしている。上記とは少し矛盾するが、ユナイテッドのxG0.63とは五分五分以上の確率で得点する可能性があったということでもある。このようなボール保持、非保持局面での優勢という背景が、ユナイテッドリードの前半につながったといえる。

Ⅱ.後半 移り変わる主導権の行方

1⃣ウェストハムのプレッシングの強度強化による主導権争い

⑩ウェストハムのプレッシングの修正

 ビハインドのウェストハムは、後半から得点を奪うためにプレッシングのマイナーチェンジを行い、強度を強化。プレッシングの開始ラインを上げ、⑩のように前半は片方がアンカーを必ず見るタスクを担っていた2トップが相手2CBに強い圧力をかけるように変更した。プレッシャーを掛ける方のボールサイドのトップはアンカーへのパスコースを消しながらボールホルダーに寄せ、もう1枚のトップはCB間のパスを制限することで、相手の逃げ道を消す。それに対応して、WGも立ち位置を上げて中央を封鎖するポジショニングをし、非ボールサイドのCHは相手アンカーの牽制も行う。ほぼ同数気味の4-4-2プレッシングである。この修正で、ウェストハムのプレッシングはユナイテッドのビルドアップにとって大きな脅威となった。

⑪ユナイテッドの後半KOからのビルドアップ・崩し

 当然、プレッシングの圧力を上げれば、後方のリスクも伴う。⑩のシーンでは後半K.O.間もない時間帯だったからか、ウェストハムのDFラインが上がりきっていないのが気になるが、ユナイテッドはサイドを経由して、アンカーカゼミロに前向きにボールを届け、ラッシュフォードのチャンス未遂シーンを演出している。前半は2トップの1角が抑えていたユナイテッドのアンカーを常に見張る選手がいなくなったことで、相手のカゼミロ、エリクセン、ブルーノの3枚のMFに対して中盤がライス、ソウチェクの2枚と実質的な数的不利になっている。ここがウェストハムのプレッシング強度の強化のリスクとなって、49',59',61',74'においてユナイテッドにビルドアップされるシーンが確認できる。
 ただ、ハイリスク"ハイリターン"である。ウェストハムも47',49',54',79'と後半でプレッシングに成功しており、この修正が後半に試合の流れを変えた一助となったのは間違いない。
 このユナイテッドのビルドアップVS.ウェストハムのプレッシングの局面の変化による主導権争いは、50分前後まで続き、ユナイテッドはこの試合で始めてゴールキックでのロングボールを51'に行っている。つまり、この主導権争いを制したのはウェストハム。49'のプレッシング成功を皮切りに、59'までユナイテッド陣内でのプレーを増やし、チャンスをつくっていった。

2⃣現代フットボールにおける"カウンター"の意味

 だがしかし、である。「59'まで」と上記したように、後半途中から相手の変化に気づいてポジションを少し低めに設定していたエリクセンの巧妙さもあり、59'にユナイテッドが後方からのビルドアップに成功すると、今度は66'までユナイテッドペースに。その後の(相手陣内でより多くプレーするという意味での)主導権争いの行方は、66’~WHU,72’~MUN,77’~WHUといった具合である。
 66'に相手CKから速攻を仕掛けて逆にCKを奪ったウェストハムが66'からは攻勢をしき、72'にこれまた自陣からのロングカウンターからユナイテッドが相手陣内深いエリアでFKを奪い、相手に定位置攻撃をする時間を増やすことに成功する。そして、77'にウェストハムが相手のロングボールを回収し、速攻からFKを奪うと、試合終了まで相手ゴールに迫り続けていた。
 結局、両者ゴールを奪えずに試合終了となったが、この両者の後半の主導権争いに現代フットボールの一つの潮流がみてとれる。
 カウンタープレスやプレッシングのレベルが発達し、ボールを持っていなくても相手陣内でチャンスを作る可能性を上げることができるようになったフットボールにおいて、「陣取り合戦」の様相はますます大きくなっているといえる。その中で、従来"カウンター"と呼ばれていた自陣からのロングカウンターの重要性が増している。実際、66'にはウェストハムが、72'にはユナイテッドが、ロングカウンターから相手陣内での攻勢をしく時間帯につなげている。
 この試合の後半のやり取りから、相手のプレッシングに苦戦して相手の波状攻撃を受け続けるチームが1発のカウンターによって、今度は自分たちがプレッシングを行うターンとして、攻勢をひっくり返すことができるということがわかる。つまり、現代フットボールにおいて"カウンター"は陣取り合戦を物にする1つのカギとなる要素なのである。
 このブログでは言及することも少ない上に、個人に頼る要素も多くチーム戦術的な観点は少ないように見える"カウンター"だが、そのまま得点を奪うというよりも「陣取り合戦に勝利する」という意味で、実は試合の流れを左右する重要なファクターとなるといえる。そのためには、プレッシングだけでなく、自陣でブロックを固めて、相手を追い出し、ボールを奪う撤退守備の質も問われてくる。そんなメッセージのつまったこの試合の後半40分間、そしてユナイテッドの選手たちの粘り強い守備であった。

Ⅲ.総括と展望

 1-0というスコアながらも、ウェストハムが後半に振る舞いを変えたことで、試合の局面が流動的となり、それへのユナイテッドの対応含めてかなり内容の詰まった試合だったと思います。面白かったです!!
 ここまでのユナイテッドは12試合で17得点(平均1.41)、16失点(平均1.33)、クリーンシート5回となっており、ブレントフォードとシティに計10点ぶち込まれたことを踏まえると、このチームは守備の固さが基盤となっているといえます。もちろん、そこにはボール保持が安定していることによる守備の機会の減少、ネガトラでのカウンタープレスの機能など、単純な「守備」以外のことも大きく係わっていますが…

 上記添付は、PL14節までの全チームのxGと得点を横軸、被xGと失点を縦軸に置いたクロス集計表である。右上にいけばいくほど得点率が高く、失点率が少ないため、右上のチームが優れたチーム群といっても過言ではないかもしれません。ユナイテッドは全体で8~9位くらいの立ち位置で、まだまだ内容的に改善の余地があるチームだといえます。
 サポ心情も入っているのか、昨季との対比も影響しているのか、試合を見ていると、「すごく強くなってる!」と実感しますが、実際のところ薄氷の勝利が多いのも事実です。CLグループ3位にはアヤックス、バルセロナ、ユベントス、アトレティコあたりが濃厚で、アーセナル、ラツィオ、ローマもいるELは苦戦必至だと思います。PL4以内orEL優勝、どちらかを勝ち取るにも、ユナイテッドはまだまだチームとして向上する必要がありそうです。次節PLはエメリのヴィラ!監督としての腕は間違いない彼が、どのような策を敷き、ユナイテッドがそれにどう対応するのか、非常に楽しみです!では。

タイトル画像の出典
https://mrfixitstips.co.uk/previews/manchester-united-vs-west-ham-prediction-and-betting-tips/

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