プレミアリーグ第15節 アストン・ヴィラVS.マンチェスター・ユナイテッド レビュー
久々の敗北。公式戦9戦ぶりの負けらしいですが、その敗戦が1ヶ月前のシティ戦ということを実況の方もおっしゃっていて、過密日程の影響は少なからずあったのかと思います。後半の3失点目以降は特に。
ただ、プロ野球の野村監督の「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負けなし」という言葉があるように、客観的にこの試合にもユナイテッドが負けてしかるべき理由がありました。それを招いたヴィラの振る舞いとユナイテッドのヴィラへの対応を含め、今回もレビューしていければと思います!!
Ⅰ.エメリの持ちネタと対ユナイテッドシフト
1⃣ヴィラのビルドアップとプレッシングによる攻勢と得点
ヴィラのビルドアップを含むボール保持の配置は4-2-2-2。GKを使いながら4枚のDFが大きく広がり、ユナイテッドの3トップの間の"門(パスコース)"を広げ、相手の中盤に対して中央で4対3(5対4)の数的優位を確保することで、CB⇒広がった中央のパスコースによる前進を狙う。
DFライン4枚でユナイテッドの3トップを広げて手薄な中央から前進するというかたちは、ソシエダ(第1節後半の型)、シティ、ニューカッスルと同じで、もはやユナイテッドのプレッシングに対する「教科書」になってきている。
ヴィラは自陣深くの中央からのビルドアップでは、上述したようにSBの立ち位置によって広げた相手のCF-WG間の"門"をCBからの展開で前進することを狙っていた。②のようにCFが中央で列を下りる動きをして、中央からそのまま前進するケースもあれば、③のようにCB→(中に絞った)SH→(外に張った)SBのパス経路によってCBにプレッシャーを掛ける相手WG裏のスペースを経由して前進することもあった。
このかたちから、前半だけでも7',15'(1),15'(2),21'(1),21'(2),22',32',37'と中央からのビルドアップに成功しており、ヴィラのビルドアップが狙い通りにできていたことが伺える。
そしてヴィラはサイドからの前進でもユナイテッドの弱点を露呈する算段を用意。SBがボールを持った際に、4-2-2-2の2シャドーにあたるSHは内側のポジションを取ったまま、(➃の場合は少し構図が異なるが)そこに釣りだされるSBの背後のスペースにCFが流れることで、相手が付いてこなければフリー受けることができ、そうでなくても相手CBをサイドに釣りだすことで、その後のチャンスメイクを狙う。
ヴィラはこのかたちから2',14',27'に前進に成功しており、ヴィラの先制点に繋がる局面を表した④(6:37~のシーン)も、上記の崩しが起点となっている。
ヴィラの得点シーン動画。ユナイテッド側はラッシュフォードが内側のパスコースを警戒してミングスにプレッシャーを掛けたため、CBミングスからボールを受けたSBディーニュに対してダロトが縦スライドで対応するものの、ヴィラ側はその背後にCFワトキンスが流れて起点を作り、中央での得点につながる崩しを演出している。ファーストシュートだったことや個人個人の局面での勝負に敗れているようにも見えることから、「ワンチャンスをものにされた感」も大きいが、実際にはヴィラのビルドアップにユナイテッドが蝕まれた結果の失点であったということだ。
それはプレッシングとて同じこと。ユナイテッドはヴィラの4-2-2-2プレッシングに対して、24'までショートパスによるビルドアップがなかった。その理由はやはり、ヴィラが中央封鎖という守備の基礎に則った守り方を敷き、誘導したサイドでの一気のスプリントをかけるといったような個人個人の守備の強度の高さがあったからといえる。
ヴィラのプレッシングは⑤のようにCHの一角デンドンケルを少し前目に出し、4-3-1-2気味の立ち位置を基本とし、ボールホルダーとなる相手2CBとそこに一番近い中盤のパスコースをふさぎ、相手SBにボールを誘導したところで、中に絞り気味のSHが飛び出し、⑥のようにパスコースを塞いだ状態で強烈なプレッシャーを掛けてボールを奪い取る狙いである。このプレッシングはSHを筆頭に各選手の運動量の多さが肝となるが、ジェラードの置き土産か、新監督就任のブーストか、ヴィラの選手はそれに余りある運動量による高い強度のプレッシングを行い、ユナイテッドのショートパスによるビルドアップを思うようにさせなかった。
そして、そのプレッシングを先制点直後の8:11~、ロングボールによるFKの獲得で再び相手にボールが渡った8:46~に見せ、相手PA付近でのFKを獲得。それが上記添付のディーニュのスーパーゴールを生み、開始僅か10分足らずでヴィラが2点リードして、試合が進んでいく。
特に2点目に関しては偶然性の高いゴールであるため、ユナイテッドとしては少し不運な幕開けとなったこの試合だったが、エメリの持ちネタであるGKを使った相手を引き込んでの低い位置からの正確なビルドアップ、彼の戦術眼からくる対ユナイテッドシフトの構築、そして選手たちのインテンシティの高いプレーという3つの要素が揃ったヴィラにとっては必然の2得点といえるかもしれない。
2⃣ユナイテッドのボール保持の狙いとVDB
ただ、ユナイテッドが1点を折り返して前半を終えたということにも、少なからず要因はあったはずである。そこで直接的な原因ではないが、ユナイテッドのこの試合でのボール保持の狙いについて見ていこう。
⑦の30:35~のシーンがその狙いを見て取りやすい。相手2トップの脇に選手(CBorSB)を配置し、そこでひし形をつくることで相手のCH-SH、CB-SBの4枚のユニットを崩して前進を狙うかたちだ。特定の位置に決まった選手が立つというよりも、2トップ脇で起点となるボールホルダーに対して、ひし形を形成するということ、そして各選手が相手のブロックの間に立ち位置を取ることが(この試合に限った話ではないが、)約束事ととなっていた。
このように「2トップ脇からのひし形」をキーとしたビルドアップからユナイテッドが前進ができたケースが30:35~のほかに、前半では19',24',29',33'で確認されている。
そして、その一連の局面で異彩を放っていたのがこの日先発のVDBである。VDBはスペースに対する認知や空間把握能力が高く、相手のマークを外す斜め方向への裏への抜け出し方にも長けている。彼は19',24',33'のビルドアップの局面でのかかわりのほかに、⑧・⑨の局面では図のように相手のSB裏、CB裏を狙う動きをすることで、そこにボールを引き出す働きを見せている。
確かに、⑧・⑨のシーンどちらも最終的には相手ボールとなり、球際の強さや細かい技術のコンディション不足感は否めないため、彼のこの試合での評価は芳しくない。しかし、この試合でもユナイテッドのボール保持での前進に貢献していたように、今後絶対的なスタメンとはならずとも、彼がジョーカーとしてユナイテッドの救世主となる可能性は十二分にある。
そんなユナイテッドは41'のGKからのクイックリスタートからの前進でFKを獲得すると、そこからの波状攻撃で2連続CK、その後のGKを回収した際のボール保持攻撃から、ショーのシュートによる相手のオウンゴールで1点を返した。
⑩・⑪の前半20分~HTのスタッツを見ると、(拮抗してはいるが、)徐々に試合の中でユナイテッドが主導権を握る時間帯も増えていたことが伺える。その流れ中での定位置攻撃で得点が決まったというのには一定の必然性があったといえる。
Ⅱ.決死の攻勢も及ばず…
1⃣ユナイテッドのプレッシングの修正とヴィラの撤退守備
自分たちの時間帯が多くなったとはいえ、2’,7’,14’,15’(1),15’(2),21’(1),21’(2),22’,25’,27’(1),27’(2),30’,32’,37’とかなりの回数で相手にビルドアップを許した前半のユナイテッド。プレッシングの修正が必要なことは明白であった。
ユナイテッドはHTを挟んだ後半から、(62'の2つのシーンのように、)3トップのWGの立ち位置、守備の基準点を上げることで、相手のビルドアップの起点となるCBの「時間」、GKからCBへのパスを阻止することを企図。そして、それによって空く相手SBへのGKからのロブパスに対しては、ロブパスの移動中にWGが魂のプレスバックを見せることで、相手SBがボールを持った際には相手にプレッシャーがかかる状態にする。
かなり根性型の修正であるが、あくまで3トップでのプレッシングにこだわるユナイテッドというチームの特性上、WGの走力と献身性に賭けた妥当で決死の策であったといえる。これによって後半のユナイテッドは、46',53',59',63',74',85'とプレッシングに成功し、(ボール保持が減ったとはいえ、)相手のビルドアップ成功の機会も46',75’(1),75’(2),80',90+3’,90+4’に抑えることに成功している。
もちろん、ロスタイムでの2つのビルドアップのように前半同様のかたちから前進を許すシーンが後半に散見されたのも事実で、この修正が完全にハマったとはいいがたいが、ユナイテッドが試合を有利に進めるための一定の効果はあったといえる。
しかし、サッカーとは無常なもの。前半からの勢いの継続に加え、プレッシングの修正で後半当初からペースを握っていたユナイテッドだったが、ミングスのクリアボールをマイボールとした後に、ヴィラが仕掛けたロングカウンターから最後はJ.ラムジーが流し込んでヴィラの3点目。最初のクリアボールの対応を含めて、ユナイテッドの選手にエラーが多発したものによる得点で、追い上げムードのユナイテッドの選手の戦意をそぎ落とすには十分すぎるものとなった。
ユナイテッドの選手の戦意をそぎ落としたもう1つのものが、ヴィラの固い撤退守備である。⑬のようにボールサイドにいるSHが後方のDFラインの一角を担い、ユナイテッドの"6トップ"による相手の攻撃の前方向へのベクトル阻みつつ、そのSHが空けたスペースにもしっかり2枚のCFが2度追いやプレスバックでカバーすることで、相手の攻撃の中央方向へのベクトルも封鎖する。もはや6-4-0といってもいい配置であった。
撤退守備含め、この日のヴィラは全選手の献身的な働きが目立っており、ジェラード政権での遺産なのか、新監督就任ブーストなのかは不明だが、ボール保持・非保持問わず、ヴィラの各選手が勝利に値するパフォーマンスをみせていたといえる。
結果的に後半はユナイテッドにボールを持たせながらも、相手のシュート(枠内)を3(1)本に抑えたヴィラが、3-1で勝利を収め、エメリのチームにありがちな試合巧者ぶりを見せつける結果となった。一方のユナイテッドはブルーノ、サンチョ、アントニーを欠いていたこと、超過密日程の最中であることが影響したことは間違いないが、第1節ソシエダ戦、リーグ戦シティ戦、ニューカッスル戦に引き続いて特徴的なプレッシングがゆえの弱みや課題を露呈したための順当な敗戦であった。
2⃣総括
相手のロングボール&ハイプレッシングに対しては、ボール保持の質を高め、相手のロングボールそのものの機会を減らすことで、負のループを抜けて一定レベルで課題を解決してみせたユナイテッド。しかし、今度はユナイテッドの特異なプレッシングに対する「教科書」を用いることで、ショートパスによるビルドアップからユナイテッドのプレッシングを瓦解させ、ボールと陣地を取り上げる相手が増えてきている。
これに対して、ユナイテッドがどういう対応、マイナーチェンジを見せるのか。一番ベーシックな解決策はそのようなビルドアップをしてくる相手に対しては、3トップ(1トップ)ではなく2トップで外方向に誘導するように相手の後方にプレッシャーを掛けることであるが、今までの試合を見てると、それが行われる可能性はあまり高くない。そうなると「練度を高めて、真向勝負!」ということになりそうだが、シティのようにレベルの高い相手になればなるほど、その理論は通用しなくなってくる。
テンハグとユナイテッドは以上の点とどう向き合い、チームとしてどういう方策をとり、どのような道を辿るのか。奇才が率いるチームなだけに、常人では想像もできない策に打って出て、解決策を導く可能性も大いにある。
次節フラム戦がW杯中断前最後の試合となるだけに、(おそらく相手的にはボール保持を諦めそうだが、)その解決策の片鱗を見せることができるか、という点も注目する必要がありそうだ。
タイトル画像の出典
https://bangkit.co.id/30736/prediksi-skor-aston-villa-vs-man-utd-6-nov-2022
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