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不思議夜話(ふしぎやわぁ) 第一集

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実際に見た”夢”をほぼ忠実に書いた自作のショートショートの取りまとめ。 第一夜から二十三夜まで。何の教訓も笑いもありません。(^-^;
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2020年5月の記事一覧

不思議夜話10

第十夜 気が重くなる夢を見た。 真夜中だと思う。私は駅に向けて車を走らせていた。駅は山の頂上付近にあり、道はその駅に向けまっすぐ上っていた。誰かを迎えに行く途中だとは思うのだが、それが誰なのかはとんと思いつかない。ヘッドライトだけが迷うことなく路面を捉え続けていた。辺りは一面の草原か何かのようで、人家の気配も無い。 どれくらいの時間が経ったのだろう。漸く目指す駅に着いた。改札が一つあるだけの小さな駅だ。その駅だけがいくつかの蛍光灯で照らされて、暗闇の中に浮かんでいた。駅員が

不思議夜話9

第九夜 気味の悪い夢を見た。 僕はカウチソファーに横になって、テレビで海外の刑事もののドラマを見ていたはずなのだが、退屈したのかいつの間にか眠っていたようだ。目覚めつつある意識の中で、点けっぱなしのテレビが気になった。どうやら番組はCMになっており、掃除機の吸引力がどうのこうのと喚いている。台所付近で母親の気配がして、裏庭から採ってきた家庭菜園の大根が思うほど大きくないと呟いていた。どれくらい眠っていたのだろうか。余り昼寝が長いと夜に眠れなくなって困るような気がして、ぼちぼ

不思議夜話8

第八夜 楽しい夢を見た。 季節は初夏で、庭には躑躅の花が咲いていた。梅雨にはもうしばらく時間の余裕が有り、汗ばむものの湿度が低く、爽やかな風が吹いていた。空は高く真っ青で、木々の緑と鮮やかさを競っていた。そんな気持ちの良い午後のことだったと思う。 僕は母親が物干し竿に洗濯物のシーツを掛けている横で、食卓用から庭用に格下げになった椅子に座り漫画本を眺めていた。今とは異なり母親は若く、僕が幼い頃よく着ていた和服に割烹着という姿だったが、不思議な気はしなかった。母親がパンパンとい

不思議夜話7

第七夜 スリリングな夢を見た。 自分は高層ビルの入り口付近で昇りのエレベーターを待っていた。昔から高速エレベーターは嫌いで、特に下り始めた時のファッとした、お尻がこそばゆくなる瞬間は最悪だ。先程から、何度も昇り下りを繰り返しているのか、不快な思いだけが募っていく。ようやく到着したエレベーターに乗ると、先客に女がいて、フロアーを表すボタンを押した。ゆっくりと扉が閉まると、突然猛烈な勢いで上昇する。そうだよなぁ、この気分が嫌なんだよ。それにこの空間は閉所恐怖症気味の自分には心臓

不思議夜話6

第六夜 懐かしい夢を見た。 私はどこか大きな料亭の大広間に案内されている途中だった。普通は廊下側が庭に続いていることが多いのだろうが、廊下側は迫る木々に邪魔されて先の景色は見えなかった。足袋裏が廊下をこする音がリズミカルで心地よい。案内の娘さんが障子を開けると、大広間は宴の準備に大わらわで、赤い襷をした十人ほどの仲居さんが膳を持って右に左に駆け回っていた。その先のガラス障子の向こうに広い中庭が見える。どうやら、いくつもの大広間でロの字型に囲まれた庭のようで、春霞の所為だけで