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小説(SS) 「一撃滅却フシギドライバー」@毎週ショートショートnote

お題// フシギドライバー


「これを使って、君も戦士になるミュ!」

 自室のデスクから見える窓際に現れたのは、人語を話すペンギンだった。
 そいつは、目を離すとぼくの膝の上に乗っていて、どこから取り出したのか、重そうにゴルフ器具を手渡してきた。

「不死を疑うドライバー――〈フシギドライバー〉だミュ。これを使えば、人間に化けてこの世界に潜り込んでいる吸血鬼たちをやっつけられるんだミュ」

 なにを言っているんだ、とぼくは思った。
 けど直後に、頭の中でなにかが繋がった気もした。最近になって、血の抜かれた死体が発見されるという怪事件があちこちで多発しているのは知っていた。なんでも噂では、吸血鬼による仕業だという。とはいえ、ぼくは信じてもいなければ、興味があるわけでもなかった。

「ふふふ、好奇心に燃えてるミュね。わかるミュわかるミュ。君の瞳の奥に輝く光が、手に取るようにわかるミュ」

「いや、違うんだけど……君、なんなの?」

「ふふふふ、ボクはペギュミン。この世界にきた吸血鬼をやっつけるために送り込まれた不思議な妖精だミュ。さあ、ボクと一緒に、悪を根絶するミュ!」

「やだよ。ぼく、学校の成績だって下の方だし」

「心配はいらないミュ。君は運動音痴で、勉強もできないけど、戦士の才能はあるミュ!」

「ほ、ほんとに?」

「嘘はつかないミュ。さっさと戦士になるミュよ」

 ぼくは、一向に進まない夏休みの宿題に飽き飽きしていたところだった。だからか、やきもきした感情の捌け口として、このよくわからないペンギンの話に乗っかってみることにした。

 家から少し歩いたところに出る。そこは車一台分くらいの道幅で、両側に背丈より高いブロック塀が住宅と道を隔てるように続く、のどかな通りだった。

「見るミュ。あそこにパッとしない初老の主婦が歩いてるミュ。後ろから近づいて、試しにドライバーを打ってみるミュ」

「ほ、ほんとうにいいの?」

「もちろんだミュ。フシギドライバーの使い方を簡単に教えるミュよ。野球のバットみたいに振り回して、化けた吸血鬼の尻を叩くんだミュ! するとあら不思議。吸血鬼は悶絶しながら本当の姿を現し、一撃成仏されるんだミュ!」

「でも、間違ってたら……相手が吸血鬼じゃなかった場合は?」

「それは、初老の主婦がただただ痛いだけミュ。君は全力で謝るしかないミュ」

「そんなあ!」

「大丈夫ミュ。吸血鬼は、目立たないように一般人に扮してることが多いミュ。あれもきっと、そうに違いないミュ。さあ早速、あの吸血鬼の尻にバンカーを空けてやるんだミュ!」

「わかった! まずはよくわからないけどやってみるよ!」

「その意気だミュ!」

 ぼくは、足音を立てずに主婦の背後に忍び寄り、大きく息を吸い、フシギドライバーを勢いよく振りかぶった。

「えいっ!」

「ち、違う! それはボクの尻だミュ! どうしたらそうなるミュ!」

「ははは、ごめんペギュミ〜ン」

「ぐぶぉうぅぇおおおああああああああおおおおおおあああああああっっ!!!!! うっ、ごふぉえっ、ぎいぃじゅぼぉぅあああああっ、がああっ! うおっ、うおっ、うううううわあああああああっ! ぎゃっ、ぎぎゃっ、うがあああああああ!」


「だ、大丈夫!? ペギュミン!?」
 ぼくはなにも理解できず、悶絶し続けるペギュミンをただただ見ていた。


「ハァ……ハァ……なぜわかった」
 野太くて低い、機械混じりの声だった。

「えっ」

「なぜわかったのだ、この私が吸血鬼であると!」

「な、なにを言ってるのペギュミン!?」

「ペギュミンなどではない! 私は、この地球全土に吸血鬼を産み落とし、世界を恐怖で埋め尽くそうとした吸血鬼の王その者である!」

「えっ、なんなの!? え、ほええ!?」

「私の好物こそ、人間の恐怖心。それを吸って長年生き続けてきた。私は、数多の吸血鬼を世界に放ったのち、その恐怖から世界を救おうと立ち上がる英雄を意図的に作り上げ、活躍を果たしたところで人々の眼前で殺し、この世に最大の恐怖をもたらそうとしていた…………だが、その計画もすべておしまいだ。貴様が私の尻に放ったその一撃によって、まもなく私は成仏されてしまう!」

「そんな! ぼくを騙してたのか!」

「そうだ。だがこんなにも早く正体がバレるとは思ってもいなかった。ゆえに警戒も防御壁の展開もしていなかった。この私が消えれば、この世界に存在するすべての吸血鬼が消滅するだろう。まったく、なんてことをしてくれたのだ、貴様は!」

「し、知らないよそんなこと!」

「くっ、こんなことが……こんなことがあってたまるものか! これほどまで無自覚なガキに! ぐああああああああっ!! くそおおおおおっ、人間のガキがここまで愚かだとは――ぐおおおおあああああああああっ! 尻がああああっっ! あああっ!!」

 ペギュミンは――いや、吸血鬼の王は、最後にそう言い残すと、全身が細やかな塵となって、きらきらと光りながら天へと舞い上がっていった。ぼくはそれを、見ていることしかできなかった。
 その光景を目の当たりにした主婦は、悲鳴を上げて逃げていった。人間だったのだ。


 どうやらぼくは、いつのまにか世界を救ってしまったらしい。
 きっと、こんな話を友達や両親にしても、まともに取り合ってはくれないだろう。
 けど、これで近頃起きていた怪事件も、誰も真相を知ることなく解決できたわけだ。

 吸血鬼がこの世からいなくなったことで、このフシギドライバーも、ただのゴルフ用品になってしまった。父はゴルフに興味がないし、ぼくの年齢だと中古買取りもしてくれない。どうしようか。
 怪しいペンギンからもらったものだし、気味悪いから捨てちゃおうかな。うん、そうしよう。

〈了〉2,311字




長くなってしまいました。
今回のお題は、感動系やほっこり系のお話を書けない私にとって、なかなかの難題でした。ですが蓋を開けてみたら、この長文!

とまあ、前回と前々回では、アクションのリズムを多用してしまったので、少しそれらを抑えつつ会話文多めに構成してみました。

次回こそは、もっと短めに書きたいとこです。
では、またお会いしましょう。

↓↓ 前回 ↓↓

↓↓ 前々回 ↓↓


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