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自分に堕ちていく

『 そんな顔だったっけ〜?
なんか、久しぶりにまじまじと
顔見たわぁ 』

『 え!嘘やろ?見てないの?
毎日もっと見てよ! 』



切なくて笑い飛ばすのでもない
照れ臭くて笑い飛ばすのでもない

じっと見た視線が嬉しくて
笑みがこぼれた


ひとつ屋根の下
毎日顔を合わせているはずの
ふたり


そういう彼の顔は数日前より
随分と日に焼けたように見える


いや、どうだっただろう

見ているつもりで
わたしも見ていなかったのかも
しれない




同じ時を、同じ場所で
過ごす家族

娘の好きなYouTube
チャンネル登録されている
ものを見れば

何が好きなのか
何を見ているのかくらい
簡単に分かる

簡単に分かる。
と思っているからか

何度、彼女から
話を聞いても
覚えないのはわたしだ


彼女が口にする
SNS、ネット用語は

カタカナなのか、漢字なのか
どう表記される言葉なのかすら

わたしには
想像もつかないので
話が入ってこない


同じ時、同じ場所にいて
きっとすぐにお互いに何でも分かる
気になることは聞けば分かる

それだけで、もう
知ったような気になって

本当は何も知らない同士
なのかもしれない


目の前の相手が
目の前のことに何を感じて

どんな世界を見て
どんな世界を生きているのか

同じ場所にいて
わたしたちは
全く別の世界を生きている
のかもしれない


だから
そんなわたしたちが
一瞬、ほんの一瞬
通じ合う

繋がり。を感じる瞬間
同じ。を感じる瞬間

それだけはきっと
真実だと信じる
その、ひととき

その一瞬の幸福に
わたしたちは
取り憑かれて生きている


誰も、その一瞬を永遠には
できない

その一瞬にとどまることは
できない

ひとつひとつ
分かれた肉体、別個体として


人間として生まれた
喜びと儚さ


だから今日も自分に堕ちていく

一瞬の感情の記憶へと
一体いつの記憶か

全くの空想か


記憶や空想に浸る時間も
現実世界の時が進む

時が進む世界が現実か?


どれもすべて夢か幻なら

何を見ていたい?
何を感じていたい?

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