神話だけじゃない出雲
出雲界隈を往く。そこに一貫したテーマは無い。心の赴くままに、未だ行ったことがない場所、見てみたい場所。
〈平田本陣記念館〉は陶磁器の類で象られた龍 一八岐大蛇の1頭というのが正しいか一 がお出迎え。均整のとれた庭園は静かに微笑む。
内部の天袋には土佐光芳の筆の鶉が。松江藩主の本陣として当時の品々が多数展示されている。
急流を遡り、木々に囲まれた道を登ってゆく先には〈鰐淵寺〉が。昨年、島根県立美術館にて行われていた〈祈りの仏像 出雲の地より〉展でお目にかかった観音菩薩立像が記憶に新しい。
苛酷な風雪を幾千と凌いできたのであろう。古刹と云うに相応しい佇まい。その由緒はというと594年、推古天皇の時代にまで遡る。
山間部へと続く、見事に苔の生い茂る蹊を歩む。凡そ10分ほど進んだ先には〈浮浪の滝〉が。祀られるのは蔵王権現とのこと。修験道の浸透が伺える。反り立つ岩壁より落つる滝、水量こそ少ないが厳かに映る。
〈スサノオラーメン〉で腹ごしらえを済ませたのち、斐川の〈万九千神社〉へ。神在月の終わりを告げる神等去出の地として名高い。
この社には本殿が無く、神殿の背部の〈神籬〉に神々が宿られるそう。境内は整備が行き届き、社も比較的新しいものと見える。奉納された小さなねずみ像 一祭神の一柱でもある大国主命に関連して一 の数々はここ数年のものだろう。
続いて向かった〈出雲民藝館〉は残念ながら休館中。字体がいかにも民藝といった風合い。聞けば売店も兼ねているとのこと。次回に持ち越しか。
民藝熱冷めやらぬまま、古本屋を経て〈出西窯〉へ。終戦まもなくして創業されたこの窯には河井寛次郎、柳宗悦、濱田庄司、バーナード・リーチなど多くの民藝家らが関わっている。
素朴であり美しい。そして理にかなっている。陶器への情熱は温かさへと姿を変える。様々な形をした焼き物を手に取る。その温度は指先から伝わってくる。ひとつだけ、持って帰ることにした。
次の帰省が楽しみである。