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ロンドンの象徴、二階建てバスに隠されたデザインの物語

ロンドンに来た当初、街の至るところを走る二階建てバスが目に留まった。それは、どこか懐かしさと共に「これぞロンドン!」と感じさせるシンボルのような存在だった。観光客が一斉にカメラを向けるその姿は、まさにロンドンのアイコンだ。鮮やかな赤いボディ、シンプルで機能的なデザインは、都市の一部として完璧に調和している。けれど、ふと疑問が湧いた。「このバス、誰がデザインしたんだろう?」

ロンドンを歩くたびに見かけるこの二階建てバスは、単なる交通手段に留まらない。街の風景を彩り、観光客の旅をより特別なものにする存在だ。しかし、デザインに興味を持つ私としては、その背景にあるストーリーが気になった。調べてみると、意外な事実が浮かび上がってきた。この新型ルートマスターのデザインを担当したのは、新進気鋭の英国人デザイナー、トーマス・ヘザーウィック氏が率いる「ヘザーウィック・スタジオ」だったのだ。

テレンス・コンラン卿から「現代のレオナルド・ダ・ヴィンチ」と称されたトーマス・ヘザーウィック



「ヘザーウィック・スタジオ?建築や都市デザインで知られる彼らが、なぜバスを?」と、最初は驚いた。トーマス・ヘザーウィックといえば、革新的な都市建築や彫刻的デザインで国際的に有名だ。彼の作品は、まるで芸術品のように都会の中に溶け込みつつ、視覚的なインパクトを与える。

B of the Bang(2005年)シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム附近に建てられた作品。

ロンドンの二階建てバスは、実用的な交通手段として知られているが、ヘザーウィックはこのバスに、新たなデザイン哲学を持ち込んだ。

2012年に導入されたこの新型ルートマスターは、環境への配慮と美しいデザインを融合させたもので、古き良きロンドンの伝統を受け継ぎながらも、現代の要求に応えるものである。ヘザーウィック・スタジオは、このバスのデザインを通じて、都市交通とデザインがどのように共存できるかを示したのだ。

私が初めてこの新型ルートマスターに乗ったとき、すぐにその違いに気づいた。二階に上がると、広い窓からの景色が一望でき、まるで街全体を見下ろすような感覚に包まれた。内装も明るく、洗練された素材が使われており、どこか未来的な印象を受けた。そして、その全体的なデザインには、効率性と美しさが見事に融合していると感じた。

ヘザーウィック・スタジオは、単に新しいバスを作るだけでなく、「移動する楽しさ」も提供するデザインを目指した。バスの特徴的なカーブや、柔らかい線は、都市空間に対して優雅な調和を生み出している。彼らのデザインには、環境への配慮も込められている。新型ルートマスターは、ハイブリッド技術を採用し、従来のバスに比べてエネルギー効率が高く、環境への負荷を軽減する設計となっている。

私が感銘を受けたのは、このデザインが持つ多層的な意味だ。単なる交通手段ではなく、都市の景観の一部であり、同時に環境問題にも対策を講じた未来型のデザインでもある。このバスに乗ることで、ロンドンの街を新たな視点から体感することができ、都市の歴史と未来をつなぐ架け橋のような存在だ。

ロンドンでの生活を通して、私はますます多くの発見をしている。都市のデザインが人々の生活や文化にどのように影響を与えるのか。シンプルなものほど、深い哲学と意図が隠されていること。そして、デザインが持つ力が、人々の経験を豊かにするものであること。二階建てバスは、ロンドンの一部であり、同時にアートでもある。その背後には、私たちが思いも寄らなかったクリエイティブなストーリーが潜んでいるのだ。

これからもロンドンでの生活の中で、こうした「意外なつながり」や「デザインの物語」を見つけ、発信していきたいと思う。MANIFESTORとして、私がこの街で感じた驚きやインスピレーションを多くの人々と共有し、デザインが持つ魅力を伝えていく。次にロンドンを訪れるとき、皆さんもこの二階建てバスに乗り、そこに隠されたストーリーを感じ取ってみてほしい。

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