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Thank You, Red Wing!

5年前に、残価設定型クレジットで軽自動車を買った。月々の支払いが1万円台で、新車に乗ることができるという。5年後、その車を買い取って乗り続けるか、新車に乗り換えるか決めることができると言われ、その仕組みを使うことにした。

私が普段乗る用の車。もともと運転は好きだが、あまり得意ではないので、大きな車は手に余る。小回りの利く、小さい車でないと無理。山のふもとで坂の多い場所に住んでいるから、ターボエンジンは必須で。
色は、緑の次に好きな赤にした。

この子とは、あちこち一緒に出かけた。近所の買い出しはもちろんのこと、娘を学校まで何百回と送り迎えし、母を都内の病院まで何十回と送り迎えし、夫の実家(@春日さんと同郷)への里帰りもこの子に乗って行った。この子に乗ってさえいれば、どこまでも行ける気がした。私の翼のような存在だった。

死期の近づいた母を見舞うため、急きょ入院中の病院まで行かなければならなくなったとき、駐車場で動揺してアクセルを踏み込みすぎてしまい、生け垣に突っ込んでしまった。母が旅立ったのはその10日後のことだった。直すのに数十万円かかると言われて、バンパーに穴を開けたまま乗り続けてしまった。

去年の夏の終わり頃になると、エアコンが故障してしまい、冷たい風が出なくなった。間もなく寒くなり、冷風を使う機会はなくなったから助かったものの、次の夏が来るまでには、確実に修理に出さなければならなかった。

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翼のような存在ではあったが、この子とは、楽しい思い出より辛い思い出の方が多かった。
学校に行き渋っていた娘を、半ば無理矢理この子に乗せて、学校まで連れて行ったし、日に日に弱っていく母を乗せて、都内の病院まで通院したし、ホスピスの見学にも、墓地の下見にもこの子で行った。
妹から呼び出されれば、どれだけ気が向かなくても、別の用事があっても、外来終わりの病院までこの子で迎えに行った。母が亡くなった後、妹から行き場のない怒りをぶつけられ、手がつけられないほど暴れられ、呪いの言葉を浴びせられたのもこの子に乗っていたときだった。
父が倒れてからは、いつもこの子を駆って、隣山のふもとの療養型病院まで見舞いに行った。

年末にディーラーさんから、次の春で5年になるので、乗り換えをどうするか考えておいてくださいと連絡が入り、すぐに乗り換えたいと思ってしまった。かわいい子だけど、その小さい車体に載せている思い出があまりにも多く、あまりにも重すぎる。

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最後のドライブは、娘の通院だった。摂食障害を患う娘は、この日初めて、病院での体重測定で目標体重の43kgを達成し、主治医から最大の賛辞でお祝いされた。行動制限もなくなり、いつでもどこへでも行っていいとお墨付きをもらった。病院での体重測定も次回からは必要ない、何かに夢中になって、一食くらい食べ忘れてしまったとしても、気にしなくて大丈夫だからね、とのことだった。

最後のドライブに、こんな最高の思い出を載せて帰れるのが、嬉しくてたまらなかった。娘と2人、大はしゃぎしながらの帰路だった。
この子へのせめてもの餞になっただろうか。

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翌日、お別れのとき。右手でピラーにそっと触れて、声をかけた。
我が家に来なければ、もう少し穏やかな車生を送れたかもしれないね。重たいものをたくさん載せてしまってごめん。5年間一緒に走ってくれてありがとう。きみと一緒だったから、しんどい日々も駆け抜けられたような気がするよ。新しいご主人様に可愛がられて暮らすんだよ。

本当にありがとう。
どうか幸せにね、レッドウィング。


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