へへへ

 追われている。押入れがむき出しのひし形の散らかった部屋から外路(廊下)を見ると、追手、黒頭巾を被ったのがふらふら近付いてきている。

 スミ(彼女)は押入れの上にあがりちょこんと座り、薄い襖の裏に隠れる。
これでは逃げ道がないが窓からおりれる高さでもない… 
とりあえずスミの後ろにまわって同じくちょこんと座る。

 ふらりと追手が入ってくる。
いきなり殺されることもありうる雰囲気。
どうしようかと、様子をみていると捕まえようとしてくる。
生け捕りにしたいらしいが動きが鈍い。

「逃げろ!いいからおまえだけでも逃げろ!」
「でも」
「頼むから行け!はやく!」

 追手がぞくぞくくる路を逆走して、
生け捕ろうとするのをいいことに力でつっぱねて道をつくり……

 スミは遠くいってしまったかなと、自分も、

「スミを逃がして一人だけ、自分は犠牲になるとみせかけて自分も逃げるって寸法ですか」

 もちろんそうならいい!イタリアのはじけた情熱、俺疾駆する、はやくはやく……

 追手はまいたが道中東海道辺りの露店街にくると、足のつかない水中で背伸びしてつま先立ちで歩いているように一向に進まなくなる。
 と、追手がビュンときて、

「さぁあんた待ちなさいよ」
「さぁあんたいい気なもんね、捕まえるわよ」
「いいんだよもう、つれてけよ」
「馬鹿ね、これ手紙よ」
 
 …へへへ、拝啓、どうかな?
とりあえず元気かな?
あたしは字が書けるようになりました。
スミ子大学!仮命名! 
なにしろ忙しいね、仲良しにもなってるよ
一緒にずっといるとね
いいね、いいね、はは、何だか楽しいね 
よかった生まれて
パンーン!へへへ…
やってこない人はあいたい手紙
まだ秘かに

 
「馬鹿だ、俺には確かに執着があった…笑顔、仲良くなれればいいなと…」
「馬鹿ね、あんた馬鹿ね、一緒にいたかったのよ」
「うるさい!わかってるよ!ちくしょう」
「うん、そうよね二人…」
 
…歓喜の抱擁、追手達が勝手に良い人たち気取りのエピローグを流す有様、意味がわかりません
(窓辺に勢ぞろい 曇りガラス辺)
「私たち、よくやったわよね?」
「うん、そうよ、よくやったわよ!」
とか、盛り上がって自分らで終わらせんなー!

……
「あたし一人ぼっち、何も感じないの」
「馬鹿、いいよ、じゃあ俺やる!」
「ほんと!じゃいくよ、せーの」

空中ブランコ、ぶんぶん振りまわす

「あはははは」
「うわ、うわ、よ、いやぁ、いや、大丈夫」
「楽しいね」

真夜中のツリーパーク
さびしいオルゴール
テクテクコンピューター
 
手紙の欄外に添えられた
にこやか満面のスマイルマーク
へへへへへへへへ

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