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「富嶽百景」(中島京子『パスティスー大人のアリスと三月うさぎのお茶会』より)



忙しい先生のための作品紹介。第23弾は…


中島京子『パスティスー大人のアリスと三月うさぎのお茶会』(筑摩書房、2016年)(ちくま文庫、2019年)


対応する教材    『富嶽百景』
ページ数      22ページ
原作・史実の忠実度 ★☆☆☆☆
読みやすさ     ★★☆☆☆
図・絵の多さ        ★☆☆☆☆
レベル       ★★★★☆

作品内容


 『富嶽百景』は事実を織り交ぜた物語と言われますが、この話は筆者のエッセイです。2部構成のようで、前半は太宰好きな友人と太宰の面影を訪ねて旅行に行く話、後半は筆者の義兄がドイツから富士山を見ようと来日し、奮闘する話となっています。後半は特に富嶽百景』のエピソードを彷彿とさせます。

おすすめポイント「文豪と海外アーティストの抱く富士山への期待値」


 特に面白いと思ったのは、後半部分での富士山の捉え方です。太宰や漱石などの文豪の「日本の誇る富士山」に対する厳しい態度と、ドイツ人のアーティストである義兄の崇拝的な富士山愛のコントラストが印象的です。

富士山をモチーフにした作品を作りながらも、まだ実物を見たことのない義兄のために、筆者たちは手を尽くしますが、富士山を目にする機会には恵まれず。『富嶽百景』で、富士山が見られなかった井伏と「私」は、茶屋の老婆がそこから撮った富士山の写真を見せてくれたことで満足しました。しかし、同じく霧で富士山が見られないとわかった義兄は、ホテルマンが同じ場所からの写真を見せても納得しません。富士山への期待は実物を遥かに超えているのでしょう。

 やっとの思いで見れた富士山の感想が、「山頂に雪がないので、あれが富士山のはずはない」。太宰が見栄を張って言った、「やはり、富士は、雪が降らなければ、だめなものだ」という台詞を思い出しました。

授業で使うとしたら


 本作は文学作品のオマージュ集ですが、どれも原作に忠実というよりは、原作から着想を得て新しい物語・エッセイに仕上げています。そのため、原作を知っていると共通項がわかり、より楽しめるようになっています。以上のことから、授業で『富嶽百景』を学んだ後に、読書案内などで紹介するのにおすすめです。

太宰の『富嶽百景』の授業では、主人公の富士山に対する評価の変遷に焦点が当てられることがよくあります。「富士山に対する評価」という観点は、中島京子版『富嶽百景』でもポイントとなっています。著者と義兄の目に映る富士山の違いを読んで、私自身にとって富士山はどんなイメージだろうかと考えを膨らませるのも楽しいでしょう。現代と文学作品の世界が繋がるような面白さがあり、授業での学習を生かした読書体験におすすめです。


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