(12)通勤時間が爆長くなったので毎日本を一冊ずつ読むことにした

 通勤時間を利用して読んだ本の記録です。今回は多いし、長いぞう。

56. 持続可能な魂の利用

 明らかに欅坂46の平手さんがモデルかな?って感じのアイドルに、フェミ友達の多い日本人女性(外国帰り)がハマる小説。これはおそらく女性学的に「正しい」本になるのだと思うが、いつものことながらわたしは簡単に肯んずることはできなかった。

会社に追いつめられ、無職になった30代の敬子。
男社会の闇を味わうも、心は裏腹に男が演出する
女性アイドルにはまっていく。新米ママ、同性愛者、会社員、
多くの人が魂をすり減らす中、敬子は思いがけず
この国の"地獄"を変える"賭け"に挑むことに−−(帯文より)

 まず、「新米ママ」と「会社員」に並列して「同性愛者」があるのはおかしい。新米ママである同性愛者や、会社員である同性愛者もいる。これを読んでいる人はおそらく「そりゃそうだ」と思うのでは と書きながらやや楽観的に思うが、念のためさらに細かく指摘しておく。

 「同性愛者」は、性愛の相手(のメイン)が同性である人という意味で、人格や特定のキャラクターを意味する言葉ではない。こう書いても未だ「そりゃそうだ」と思われそうだな…… 主にゲイカルチャーなどの文脈において、「同性愛者」=「2丁目で派手な格好をしているバーのママ」みたいなステレオタイプが世の中に蔓延っている、と例を挙げれば分かりやすいだろうか? 「ゲイ」と言うと「おかま」を想像する人たち、つまり「同性愛者」というパッケージには特定のキャラクターや人格像が存在すると信じている人がマジョリティである世界で、「同性愛者」を他の選択できる職業と並列することは、その偶像の存在を認めることになる。と、わたしは思う。だから読後に「同性愛者」と並列された帯文を見て、「うわぁ」と思ったし、フェミニズムをテーマにするのであればそこを踏み抜いてはほしくないなと思ってしまった。もちろん、フェミニズムだからと言って全てが正しくある必要はないのだけど、同時に「それはおかしいですよ」と指摘する権利もあるはずだ。おそらく筆者が書いているわけではない帯文に対してコメントをつけるのはおかしいかもしれないけど、ざっと読んだ所感として書きつけておく。

 ただ、ついでに書いておくと、実際出てくる「同性愛者」のタイプも、ちょっと なんだかなー。という感じなんだよね。海外に移住して女性のパートナーを持っている女性なんだけど、「海外」に出て「異性愛」から逃れれば勝ち みたいな書き方になってしまっているな と正直感じた。not for me。

57. ことり

 死者の声を運ぶ小舟

 朝この記事を読んで、吸い寄せられるように本屋に行き、ずっと目に留まってはいたものの手に取っていなかった小川洋子のこれを買った。わたしにとって小川洋子の文章は錨のような存在で、読んでいると身体が しん と静まりかえる。

 『ことり』も実に静かな話だった。小鳥に魅せられる兄弟の話。変化を嫌い、ルーティンを愛する兄弟。しばしば「変化に追いつける存在であることが大事」「柔軟性を持っておくことが大事」と、特にビジネスの場で言われることが多いけれど、人に合わせてぐにゃぐにゃに曲がっていくだけが善だと思っていたら足許をすくわれるような話だ。読めてよかった。こういう本を読むと精神的にまともでいられる気がする。

 どうでもいいことだが、小川洋子の「死者の声を運ぶ小舟」に対して深緑野分が苦言を呈していて、それはそれで超いいな(何目線?)と思った。

58. 何ものにも縛られないための政治学 権力の脱構成

 困った時に読む栗原康。よく「文字数的にもうちょっとなので書いておくと」みたいなことをあけすけに書いてあるのが面白い。栗原康はセックス大好きみたいだけど、性欲がなくなったら(インポテンスになったら?)自論が変わったりするのかな? どこかで読んだ話だと60代くらいになっても「性欲」自体はあると答える人も多いらしいから、そうだとしたらわたしがおばあちゃんになるくらいまで栗原康を読み続けなければ観測できないな……。「政治学」とありつつ、中身を開けたら「計画停電のときに車で彼女とイチャイチャしたのが楽しかった」みたいなのばっかり書いてあるの面白いんだよなあ。

59. ニセ科学を10倍楽しむ本

 図書館のティーンズコーナーで借りてきた。「ゲーム脳」とか「水からの伝言」とか、いわゆる「ニセ科学」を論破していく話。これ間違いなくティーンの時に読んでたら周囲の人間にこの本の内容をふっかけては論破しまくって嫌がられてたと思うから、読んでなくてよかった。面白かった。でも「ゲーム脳」の章の終わりで非実在青少年の話をするのは違うんじゃないか?(笑) 「ゲーム脳」の章はおばあちゃんが「ゲームをやりすぎるとゲーム脳になる」と言い出すところから始まるんだけど、そのおばあちゃんは「ゲーム=非行」みたいな非実在若者を殴ってて、それを論破するっていう内容なわけじゃん? 翻って非実在青少年に関していうと、「エロいものを見ると犯罪者になる、排除しろ!!」的な非実在PTAババアを想像して書いてないか?(笑) お前、おばあちゃん側になってないか?(笑)と思った。あと、主人公の女の子が数学と理科が得意っていう設定になってるのはまぁいいんだけど、そのほかの女性(お母さん、おばあちゃん)がみんな「テレビや新聞の情報を鵜呑みにしてしまうところがある」みたいな紹介になっているのは…… まじで…… そういうところだぞ。その二人は女言葉で喋っていて、主人公の数学と理科が得意な女の子は女言葉じゃないところも特徴的。そして「パパ」が「科学的なこと」について「論理的に」「教えてくれる」という流れ〜。ハァ〜 家父長制家父長制。

60. 乱読のセレンディピティ

 こちらも図書館で借りた。『思考の整理学』を読んでいれば読む必要ないと思う。アルファー読みとベーター読みって久しぶりに見たわ。

61〜63. レッド(1)〜(3)

 血腥いものを見たいと思って買った。研究室で論文をサボって読んでいたぶりに読んだ。急にくるセックスシーンの女がま〜じで可愛くて、山本直樹ッ…… 流石のエロス!! と拳を挙げたくなる。細めの女性の鎖骨から乳房までの曲線を描くのが世界一うまい。昔読んでいた割には内容を忘れまくっていてウケた。ちょっとずつ買って読んでいこうと思う。

 どうでもいい話を挟んでおく。朝これを読んだあと出勤したんだけど、その日部下がちょっとしたミスをしてめちゃくちゃ反省していて、つい「自己批判している!!」と思って興奮し、笑いが止められなくなりそうでヤバかった。その場では超我慢して、のちのち新卒ちゃんに「いま1969年〜1970年の連合赤軍の話を読んでるから、反省している人を見ていると『自己批判している!!』と思ってしまいそうになるんだ」とこっそり言ったら、「いつも面白い本読んでますね」と言われて嬉しかった。人間の頭には皆「①」が見えます。

64. 海と毒薬

 Twitterで「#名刺代わりの小説10選」というハッシュタグが流れていて、自分のそれを考えてみたら、『海と毒薬』は外せないなあと思った。ということで読み返した、夏の盛りに読むべき本。ちなみに他の本はこれだ。

妊娠カレンダー/小川洋子
烏有此譚/円城塔
地球星人/村田沙耶香
海の向こうで戦争が始まる/村上龍
告白/町田康
チグリスとユーフラテス/新井素子
斜陽/太宰治
GOTH/乙一
芽むしり仔撃ち/大江健三郎

 はじめて『海と毒薬』を読んだのは中学生のときで、あのときは「解剖」という言葉に惹かれて読んだと思う。(折しも養老孟司の『解剖学教室へようこそ』を読んで目がひらかれる思いをしたばっかりだったのだ)あとは「グロいものを読みたい」という中二病的考えもあったと思う。が、実際に読んでいくと、グロテスクな描写が刺さるというよりは「なぜ人を殺すのか」「生死を決めるのは誰か」「神はいるのか」みたいな部分でズーンと刺さる。遠藤周作である……。とにかく文章が軽くそれほどボリュームがある話ではないのに、どんどん引き込まれて、どんどん核心に迫っていくのがつらい。スピードがすごすぎる。こんな小説が書けたらきっとわたしなら死んでもいいと思うと思うが、遠藤周作は多作ですごいと思った。

65. シリコンバレー式最強の育て方 ―人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング―

 会議のあと、珍しくビジネス本でも読むかと思って買って読んだ。いつも思うけど、こういうのは信仰と同じだ。読んで実践し続けるのは生き方を変えるということなのだから。

 そうそう。「部下のことをちゃんと理解しているか?チェックリスト」みたいなのがあって、その中に「ちょっと言いづらいような家族のネガティブなことを教えてくれている」みたいな項目があったんだけど(それを計数してチェックしていること自体クソキモいよねー)、そんならわたしの上司だった人はみんな勝ちでは?と思った。「こんにちは! 今日母から『私を殺したいのか?』と言われまして〜」みたいなこと毎日言ってたからな。(これを「自己開示ができている」と評価する上司、どうかしてるぜ)

 それにしても、なんでこういう本ってハイライトを勝手に先につけるんだろう。超読みづらい。ハイライトの部分しか目に入らない。

66. デジタル・ミニマリスト 本当に大切なことに集中する

 ビジネス書を読んだら「情報は多い方が吉」みたいな考え方が鎖骨の隙間あたりから入ってきそうで気持ち悪かったので、昔読んだ『デジタル・ミニマリスト』を再読。去年の秋ごろに一回やったんだけど、あのときの経験が今のSNSの使い方にも通じていて、かなりいい経験ができたなと振り返れた。何時間使ったらダウト、的な考え方ではなく、要は「主体性を持ってSNSを使えているか」というところにフォーカスが当たっているところがいい本である。

 ファ〜。久しぶりにいっぱいいろんなことを書いた。楽しかった💘 本を読んでいくと無限に読みたい本が増えて困る今日この頃ですが、オススメの本はいつでも募集しております。よかったら教えてください。

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