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教育大学院生としてビジネスの授業を受けて

この記事はこんな方向けに書いています:
・アメリカの起業戦略の授業の様子が知りたい
・「起業」という言葉にもやもやしている部分がある
・教育×起業ではどのようなことを考えるのか気になる


↓帰国後に学びの場のデザインに挑戦したいため、参考としてアンケートを取っています。ぜひご回答ください!


今回のnoteでは、起業戦略の授業と、その授業で学んだこと三つについて紹介していきたいと思います。
それにしても、教育大学院で学生をしていたのに、なぜ起業戦略の授業を取ることになったのでしょうか…?
遡ること今年の一月、春学期の授業を決めたはいいものの、何か少し納得がいっていないような自分がいることに気がつきました。
「春学期の授業でこの一年間をどう過ごすかが決まってしまうけれど、本当にこの過ごし方でいいのだろうか?もっとコンフォートゾーンからも出てみるべき?」

しかし、春学期前半は認知科学、学校デザイン、コーチングアンケートと四つの授業を取っていて結構いっぱいいっぱい。
コーチングとアンケートの授業が終わった後半のタイミングで、運良くマサチューセッツ工科大学スローン経営大学院 (MIT) のErin Scott教授による起業戦略 (Entrepreneurial Strategy) に受講させていただくことができました。
(もしこのnoteを読んでハーバードとMITの間で学校横断の登録を検討する方がいたら、学校横断の授業登録のスケジュールはイレギュラーなので、学期後半の授業だとしても学期始めにコースカタログに登録しておくことをオススメします)

授業について簡単に説明すると、Erin Scott教授は「起業で重要なことは選択である」と説明していて、どう選択するかの指針としてEntrepreneurial Strategy Compassというフレームワークを使います。
そのコンパスは、横軸の協力か競争か、縦軸の制御か実行かによって、知的財産 (intellectual property) 、構造 (architecture) 、バリューチェーン (value chain) 、破壊 (disruption) の四象限に分けられています。
四つの異なる戦略がある中で、まずは二つの戦略を選んで少しずつ試し、最終的に一つの戦略を取るということを、実際のケースなどを使って教えてくださりました。
(もうすぐ教授の著書が出版されるはずなので、図を見たい方はそちらをお待ちください…!)


どんな生徒にも丁寧に接してくださるスコット教授。


MITのMBA生がたくさんいる中で、教育大学院生として受けていたのですが、この一年間教育について学ぶ中で色々な違いを感じ取ったので、今日は教育大学院生がMBAのコースを受けてみてどう感じたかということを三つ紹介していきたいと思います。



コミュニケーションには文脈が必要


今回初めてビジネスについての授業を受けてみてまず感じたことは、発言するのが難しかったということです。
この授業は発言を含む出席点が成績に加味されるので私も発言しようと意気込んでいたのですが…教育大学院の授業ほど発見できず。
なぜかというとMBAでの他の授業を受けていないから馴染みが浅いというのもあるのですが、一番感じたことはアメリカの消費文化について知っていることが少ないということです。

ビジネスの授業はケーススタディであることが多いので、主にアメリカ社会で有名な会社やサービスを議論の中で取り上げます。
ディズニーやアップルなどはまだ分かるのですが、特にスタートアップ企業だとアメリカのローカルなレストラン、アパレル、デートアプリ、緊急通報システムなど、知らない会社やサービスばかり!
ローカルなコミュニティやルールが重要なのは教育の特徴かと思っていましたが、ビジネスも企業や業界によってはとてもローカライズされているのだということを肌で感じました。

そして幅広い分野や技術を取り扱っていても、教授が「この会社と仕事をしたことがある人?」「このサービスに関わったことがある人?」と聞くと、30名ほどいる学生の中で、必ず一人は手を挙げる人がいる…さすがMIT生です。
「特許を取ったことがある人?」という質問に対して手を挙がり、特許を取ることがどのくらい時間がかかることなのか教えてくれる同級生がいることに驚きました。


どんな人や起業にも、失敗はつきもの


最後に起業戦略の授業を受けて、一番心に残ったこと。
それは今どんなに立派に見える企業でも、必ず失敗を通ってきているということです。
よく考えれば当たり前なのですが、SNSを見ていると功績ばかりが取り上げられるので、自分ばかり失敗しているように思えてしまうなと感じました。

特に印象的だったのが、ディズニーのケースです。
実はウォルト・ディズニーはミッキー・マウスを発明する前に、一度オズワルド・ザ・ラッキー・ラビットというキャラクターをつくっています。
しかし当時一緒に働いていた人に著作権を取られてしまったことから、その後ウォルトがつくるすべてのキャラクターにはしっかり著作権を取得することを決意し、その後のミッキー・マウスの大成功に繋がったとのことです。

その他にもMITの卒業生でエコフレンドリーなカーシェアのサービスを立ち上げ、軌道に乗らずそのサービスを閉じた話をしてくれた方もいました。
その創業者もカーシェア業界についての私たちの質問に対しては何でも答えられるくらい、そのサービスに熱を持って取り組んでいたことを感じられたので、何か上手くいかないということはこの世の終わりではなく、プロセスの一部なのだと感じることができました。
「でも起業にはお金がかかりますよね?」という質問に対して、「でもあなたたちは大学院で学びに来ることで自分に何千ドルも投資してますよね?そのことを考えれば起業に対しても強くなれるはず」との応援の言葉を贈ってくれました。


ゲームのように考える起業戦略


最後に、教育大学院の授業に漬かっていた身として一番驚いたことは、ビジネスの授業と教育の授業では全然脳の使い方が違うということです。
教育大学院の授業では様々な性格や背景を持った人の成長を扱うということで、小さく試してみてずっと答えのない問いについて考えるような思考をしていました。
全員にとって素晴らしい教育は存在しないので、どういう問題があるか考えて一つ小さく試し、その中から上手くいったことと上手くいかなかったことを分析して、議論しながら微調整していくようなイメージです。
答えのない問いに対して長い間議論したい方に向いている分野ではないかと思います。

一方で、今回の起業戦略についてはゲームのように感じました。
起業についてはターゲットを明確に絞りますが、ここがどんな生徒が来るか分からない教育とは根本的に違います。
戦略についてはもちろんトライアンドエラーで調整が必要なことはありますが、この授業ではターゲットとしているお客さんに対して正解になりそうな戦略を二つに絞り、そこからさらに一つに絞って結果が出るかどうか見るという方法を取っていました。
教育は公共の権利かつ義務であり、誰も排除しない世界の話なので、どこまでビジネスの考え方を取り入れる必要があるかはよく考える必要があると感じました。


「起業」と聞くと壮大に思ってしまいますが、この授業を受けてゲームのように目の前のことを地道に考えてクリアしていくこと、文脈を踏まえたコミュニケーションが大切なこと、何かを選択する中ですぐ正解を出せることはなくて失敗はつきものだということなど、改めて日常の挑戦のさらに延長なのだなと感じることができました。
授業にどのくらい貢献できたかは分かりませんが、普段の教育大学院の同級生や授業から飛び出てチャレンジしてみたことで、違った角度からの学びが得られたと思います。
ビジネスにおいても普段の生活においても、行動することを恐れないマインドは今後の人生でも持ち続けていきたいです。

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