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世界の繋がりを感じるアジアの創造神話:神々の伝承から学ぶ②

 前記事では、西洋の創造神話で終わってしまったので、今回はアジア・日本の神話を紹介したいと思う。日本の神話はかなり面白いのだが、他国と違って日本では母国の神話を子供たちに教えないので、すごく寂しい。最終的に言いたいことは、次回記事になります。(小野堅太郎)

 創造神話は基本的に口承で長年伝わり、時代と共にいろんな話が混ざり合い、書物に残ったとしても異伝が存在し、こうだ!、というわけではない。これから紹介するアジアの創造神話がエジプト神話、ギリシャ神話、聖書、北欧神話の後に説明したからと言って、アジアの神話が西洋とかの影響を受けたのかとか、どちらがオリジナルなのかはわからないのが実情である。ただ、類似点を説明する上で先に有名な西洋神話を知ってもらった方が面白いので、この順にしていることは了承していただきたい。

 まずは中国の代表的な創造神話、盤古(ばんこ)から。天地が分かれる前、巨大な卵が存在し、その中で陰と陽の相対するものが混ぜ合わさっていたある時、毛むくじゃらの巨人、盤古が生まれます。盤古は長い間眠っていましたが、目を覚ますと斧で卵を内から叩いて二つに分離させます。陰と陽は分離し、天と地が作られます。盤古はその間に立ち、天と地が再びくっつかないように間に立ちます。天と地の厚みが増すたびに盤古も大きくなり、眠っていた1万8千年と同じ期間頑張りますが、ついに力尽きて死んでしまいます。目玉は太陽と月になり、毛髪は天の川となり、手足は山、血は川、肉は大地、骨は岩、皮膚の毛は木、汗は雨となります。なんということでしょう。卵のごちゃごちゃしたイメージはギリシャ神話のカオス、天と地を分ける話はエジプトのヘリオポリス神話、大地の形成は北欧神話のユミルと共通点があります。

 次は、インド神話(ヒンドゥー教、仏教など)から乳海攪拌。ぐちゃぐちゃしたカオスの中、まず、水が生まれます。そこになぜか種がまかれて、卵が産まれます。卵は割れて中からブラフマンが生まれ、神から何から何まで作ります(ヒンドゥー教、仏教では梵天)。卵が盤古と共通してますね。その後の神々の戯れ・喧嘩はギリシャ神話と同じですので省略しましょう。ある時、ドゥルヴァーサスという賢者(神?)が人間からの接待がきっかけで勘違いして怒って神々に呪いをかけるという神々にとってとばっちりの事件が起こります。これはしめたと、神々といつも喧嘩しているアスラ(阿修羅)が攻めてきて、コテンパンにやっつけられた神々は現世の神ヴィシュヌに助けを求めます。ヴィシュヌはブラフマンとシヴァと同列の強い神です。さて、ヴィシュヌは神々に呪いを解くには、乳海攪拌により不老不死の薬アムリタ作って、飲めばよいと言います。だたし、乳海攪拌は神々だけでは行えないぐらい大変。そこでアスラと交渉し、同じくアムリタが欲しいアスラは神々と和解して協力します。海に植物と種を入れ(乳海)、ヴィシュヌを中心として神々は海を必死に混ぜます。海の生き物は摺りつぶされ、山の動物は火事で燃えて海に流れ込み、1000年の混ぜ混ぜが続きます。その中で、太陽、月、象、牛、馬、新たな神々が誕生します。アスラはヴィシュヌに騙されてアムリタを奪われ、戦いの末、神々の勝利となります。このごちゃごちゃは、基本的に北欧神話のラグナロクと同等だと思います。

 さて、本題の日本の創造神話です。古事記のストーリーで概説します。例にもれず、ぐちゃぐちゃして陰と陽が分かれていないときに、神が生まれます。別天(ことあま)つ神5柱、さらに日本書紀と共通するクニノトコタチとトヨクモノの2柱は全く意味が分からないが、現れるが特に何もしないで姿を消す。次にようやく性別のある神が次々に5組生まれるが、泥のようなものから次第に人間の形となっていく。最後のペアが、イザナキ♂(兄)とイザナミ♀(妹)です。他の神々から国を作れと命じられた二人は、天空の「天の浮橋」に立ち、「天の沼矛」で海水をかき混ぜます。乳海攪拌ですね。矛を引き上げて先端から滴り落ちた塩が積もってオノゴロ島ができます。ポリネシアに、男女の神々が島を作る神話があり、これも類似点ですね。

 オノゴロ島に降り立ったイザナキとイザナミは「天の御柱」と神殿を立て、兄妹ですが他の神話と漏れることなく夫婦になります。この契りの儀式が面白い。天の御柱をイザナキは左から、イザナミは右から回る。出会ったところでイザナミは「かっこいい!」と声を掛け、イザナキが「かわいい!」と声を掛けます。なんという茶番。しかし、形のないヒルコ、淡島ができてうまくいきません。そこで他の神々に相談すると「女性から声かけたから」と言われるので、儀式をやり直して、今度はイザナキから声を掛けます。そして、無事、大きな島を8つ(淡路島、佐渡島、対馬、壱岐、隠岐、九州、四国、本州)産むことができます。なんと、男性から女性を口説くべきだという謎の風習が国が作られる前に神様から指摘されていたのです。

 こうやって世界の神話における世界創造の逸話を並べてみると、たくさんの共通点があり、面白くないですか?また、各地域の独自性もあります。基本的にその地域の環境が取り入れられています。インドと日本の神話では、人はどうやってできたの?と疑問がつきません。泥人形というような情報は多々ありますが、残念ながら、確たる情報を見つけられませんでした。

 ヒトはミトコンドリアDNAの調査からアフリカ大陸中央部で誕生したと考えられています。北へ移動し他グループは白人種となり、東に移動したグループは黄色人種となります。ベーリング海峡を渡り、アメリカ大陸までヒトは移動します。地球上でこんなにも繁殖域を広げた動物は他にいないのではないでしょうか。各地域に都市を建設し、文化的交流を行いながら、神話は形成されたのだと思われます。シルクロード最東端の日本では、神話エピソードの混合と独自ストーリーが合わさっていて面白いです。

 では、人々はなぜ創造神話を必要としたのでしょうか。昔の人たちは、思考をめぐらせば、なぜ自分が存在するのか、なぜこの草木や大地が存在するのか、太陽や月や星はなぜこうも周期的に運動しているのか、疑問の渦にはまったに違いありません。見つからない答えに不安が募り、一時的な疑問のよりどころとして創造神話は必要だったと思います。次回は、現代の創造神話、超ひも理論について話したいと思います。



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