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エジプト・西洋の創造神話の共通点:神々の伝承から学ぶ①

 大学生の頃から「神とは何なのか」を考えるようになった。自分は「科学」を「神」として拝んでいるようなところがあり、宗教信者とさほど差はないなと感じている(科学教の信者)。なぜ神が必要だったのかを、ちょっと考察してみる。(小野堅太郎)

 神々と言っても、エジプト神話、ギリシャ神話、北欧神話、ヒンドゥー神話、古事記・日本書紀などから、各宗教の中の教祖たる神からさまざまである。過去記事の「マッドマックス 怒りのデスロードから学ぶ」の第3話で書いたジョーセフ・キャンベルの「千の顔を持つ英雄」では、世界中の神話が集められており、神話の類似性について面白く読むことができる。

 神話の中の神は、超人的な力を持つものの、愛、嫉妬、妬み、奔放といった実に人間的な彩りを持っている。世界や人の創造に関して奇妙な儀式(手順?)を介して、偶然生まれた奇跡に関与してくる。階層構造を持っていて、神々には位があり。上と下がある。その中で、神々の気まぐれで起きる様々な災難に人々が翻弄されている。

 三大宗教のキリスト教、イスラム教、仏教などは、明確な教祖が存在し、書物の中では明らかに自然界の神が既に存在し、その伝道者として教祖がいる。しかし、その教祖たちは死と同時に神的な存在となり、信者たちに生きる方針を説く。つまり、神話の中の神はどちらかというと、宗教神の上位にあることになる。支配者(神)が社会不安の中での人々をコントロールするために、宗教が政治的に利用されてきた構造が反映しているのかもしれない。宗教について議論するのはマナビ研究室の趣旨から離れるので議論するつもりはない。どちらかというと、なぜ我々は神という人型象徴の仕業として創造神話を作ったのかという点に興味がある。

 エジプト、ナイル川下流のヘリオポリス神話では、原始の海ヌンから創造神アトゥムが発生し、テフヌト(湿気の女神)とシュウ(大気の神)を産む。二人の子供、ゲブ(大地の神)とヌト(天空の女神)は深く愛し合い、ずっと抱き合っているので、父シュウが二人の間に入って引き離そうとする。しかし、二人の手と足は繋がったまま。いや~、天空と大地が地平線で繋がるも、人々が生きる空間に大気が存在するという、なんとも素晴らしい神話である。さて、既に妊娠していたヌトは4人の子を産む。オシリス(冥界の神)、豊穣の女神イシス(豊穣の女神)、セト(砂漠・戦の神)、ネフティス(葬祭の女神)。これでヘリオポリス九神全部となる。オシリスとイシス、そしてセトとネフティスは夫婦となるが、ネフティスはセトよりオシリスが好きでたまらない。イシスに仮装したりして、オシリスとの間にアビヌス(ミイラの神)をなんとか授かる。怒り狂ったセトはオシリスを9つに引き裂いて捨てるが、イシスとネフティスが協力して拾い集める、という最高に面白い話になるのだが、ここでやめておこう。他にもエジプトには創世神話異説があるので、岡沢秋さんのブログ内「エジプト神話ストーリー」を読んでみてください。めちゃくちゃ面白いです。

 ギリシャ神話では、まず混沌(カオス)が存在し、そこから大地の神ガイア、エロース(愛)、タルタロス(冥界)が生まれる。さらに、カオスから生まれたニュクス(夜)とエレボス(闇)から、種々の神が生まれる(Wikipediaの系図参照)。ガイアは、ヘリオポリス神話でいうアトゥムの様に、自力で天空の神ウーラノスと海神ポントスを生んで、ウラーノスを夫にして、まずティターン12神を産む。ウラーノスはティターンの一つ目巨人キュクロープスなどを恐れてタルタロス(冥界)に幽閉してしまうが、それを恨んだガイアは、農耕神クロノス(ティターンの末弟)に大鎌を渡して股間を切り取って殺害させる(怖!でもその股間は、美の神アフローディテになる!)。ところがクロノスは「お前も子供に殺される」との予言を受け、妻レアーとの間の子供を生まれるたびに食べてしまいます。何とか生き延びた赤ん坊ゼウス(レアーによりガイアのもとに隠された)は、成長したのちにクロノスから兄弟を吐き出させて、父を討ち取る。ゼウスを含めた、この吐き出された兄弟たちが、有名なオリュンポス12神となります。クロノスへの呪いの予言は、新約聖書のユダヤ王のエピソードと繋がります。

 天地創造と言えば、旧約聖書「創世記」第1章です。ユダヤ教・キリスト教では、はじめから創造神は存在する。一日目に天と地に分けられ、光ができて昼と夜ができたのが第一日目。二日目に空を作り、3日目には大地と海を分けて植物を誕生させる。4日目には太陽(昼)と月(夜)を作り、5日目に動物と鳥を作り、6日目に土から人(アダムとイブ)を作る。7日目は疲れてお休み(日曜日)。唯一神であり、ヤハウェ(日本語ではエホバ)と呼ばれる。同じく一神教のイスラム教ではご存じアッラー(神)により、こちらは6日間で天地創造したらしい。

 北欧神話は、人気漫画「進撃の巨人」の元ネタということで有名。ファンタジー全体(RPGゲームを含む)の元ネタでもあります。北欧神話では9つの世界が世界樹ユグドラシルによって繋がれている。その中でも世界の起源とされるのは炎世界ムスペルと氷世界ニフルである。この対比的な世界の隔たりで、ムスペルからの火の粉がニフルの氷に触れて巨人ユミルと牝牛が生まれる。牛の乳を飲んで暮らすユミルは、脇から男女を産んで、巨人族の親となります。一方、牝牛が氷岩を舐めてると3日目に岩から男が出てきます。その男は巨人との間にボルという子をもうけ、ボルはさらに3人の子をもうけます。この3人が神々となります。神たちは無力なユミルを殺害したため、その大量の血が海となり、多くの巨人が溺死します。次に、神々はユミルの死体で世界を創造します。体で大地を、血液で川や湖を、毛で木を、骨で石を、脳みそで雲を、頭蓋骨で天空を。炎世界ムスペルの火の粉は舞い上がり、天空の星となります。3人の神は、流木を掘り出して人間を作ります。さらに、神々を憎む巨人との争いを避けるために、神は大きな壁を作って住む世界を分けるわけです。しかし、いずれこの壁を越えて大戦争が起き、破滅と再生の「ラグナロク」を迎えるわけです。こうやって解説すると、現在クライマックスで虐殺が始まった「進撃の巨人」のネタバレのようになりますが、北欧神話の説明ですのであしからず。あと、魔女のイメージ(過去記事「魔女伝承から学ぶ」)は北欧神話から来たという話もありますが、これはまたいずれ。

 エジプト神話とギリシャ神話の話のモチーフが似ているのは地理的な近さと文化交流があったことが影響しているのでしょう。ユダヤ教・キリスト教における創造神話とも関連がありますね。北欧神話は他の神話と比べると、牛も一緒に生まれてきたりして、ちょっと訳が分かんないところが多い創造神話です。氷とか出てくるところが地域性を反映しているのでしょう。他よりも比較的新しくまとめられた神話のようですので、おそらく各部族の古い言い伝えが混合して、今の奇妙なストーリーとなったのだと思います。非常に現代的なイメージを持っており、ファンタジー世界の原点を見て取れます。「進撃の巨人」では、アフリカ・ガーナの神話に出てくるオニャンコポン(生命の創造主)の名前を冠したアフリカ系技術者が出てくるなど、世界中の神話を取り込もうとしています。今後の進展が気になります。果たして「ラグナロク」を迎え、新しい人類の誕生を迎えるのか?!

 次回は、これらの神話がもろにアジア・日本の神話と繋がっているという話をします。


 

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