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十条の名喫茶「スヰング」閉店に寄せて

55年以上続いた十条の名喫茶「スヰング」が、十条駅西口再開発にともない、2020年2月24日に閉店した。

僕はたった5、6年の付き合いだったけれど、ひとりで店を切り盛りするママは、僕にとって「十条のお母さん」だった。

誰にも相談できないような悩みも、スヰングのママには不思議にさらっと話すことができた。それは、お互いに顔は知っているけれど、あえて名前を聞き合うことのない、絶妙な距離感のおかげだったと思う。

久しぶりに顔を出すと、「あらー、元気?」「ちょっと痩せたんじゃない?」と気にかけてくれたママ。

ある悩みを相談した時に言われた、「ハッピーじゃなきゃダメよ」という言葉が、今も鮮明に思い出される。ママはそんなつもりじゃなかったかもしれないけれど、その言葉は僕に、「自分を犠牲にしてはいけない」ということを教えてくれた。

……と、こんな風に書いていると、まるでママがいなくなってしまったみたいだが、もちろんそうではなく、お店がなくなっただけである。念のため(笑)。

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それにしても、こんな素敵な喫茶店を閉店させる再開発とは、一体何なのだろう。

そんなことを考えているうちに、再開発のキャッチフレーズが頭に浮かんだ。

「ディープな街を、チープな街に。」

うん、我ながらよくできた(笑)。

ディープな街とは、その街の歴史と、その街の人々の営みと共にある、固有性のある街だ。チープな街とは、その街の歴史を漂白し、外部によって作られた、交換可能な街だ。

どこも同じような開発が進められて、電車の窓から外の景色を見た時に「ここが一体なに駅なのか分からない」あの虚しさ。どちらが面白くて魅力的な街かは、言うまでもないだろう。

十条の再開発は、なんとなく既定路線みたいになっているけれど、今すぐにでも中止していただきたいと僕は思っている。金儲けのために、一度壊したら二度と取り戻せないものを壊すのは、本当にやめて欲しい。

もちろん、そこに暮らす人々の総意として「チープな街を目指す」というのなら、それで全くかまわないけれど、少なくとも十条に関しては、ほとんどの人が「ディープな街を残したい」と思っているのだから。

お店の最終日の前日、友人と共にスヰングでモーニングを食べ、ママに感謝の花束をお渡しした。邪魔になったら申し訳ないなあと、渡すのを少しためらったけれど、幸い喜んでもらえてひと安心。

これまで素敵な時間と空間を提供してくれたスヰングとママ、本当にありがとうございました!

そして、おつかれさまでした!!

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