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昼下がりの黒猫

ある晴天の日。

公園で弁当を食っていると、いつのまにか小さな黒猫が、僕の座るベンチの脇にたたずんでいる。

向かいのベンチに座るご年配の男女が、それを見て微笑んでいるので、

「いやあ、狙われてますね」

と挨拶がわりに声をかけ、一緒に笑った。

黒猫は特に何かを主張するわけでもなく、自分の足もとや、周りの景色を眺めながら座っている。弁当を分けてあげたいのは山々だが、一応、動物にエサはやらないことにしている。

小一時間経つと、その黒猫はゆっくりとその場を離れた。僕が背中を眺めていると黒猫は振り向いて、目が合った一瞬、その瞳を輝かせた気がしたが、結局そのまま行ってしまった。

そのうち女子高生らしい二人組が近くのベンチにやって来て、「あー、猫がいるー!」と言って、その猫と遊び始めた。猫はエサを求めるといったふうではなく、本当に「待ってました!」とばかりに、その女子高生らと手を合わせて遊んでいるのだ。

その時、僕はその黒猫に対して、ものすごく失礼な思い込みをしていたことに気づいた。

僕は最初から「こいつはエサが欲しくて近づいてきたんだな」と思い込んでいた。それにしてはちょっと様子が違うな、とは思っていたのだが、「悪いけど、エサはあげないよ」というふうに対応してしまった。しかしどうやら黒猫は「一緒に遊びたかっただけ」のようなのだ。

自分の思い込みで、その黒猫を下品な存在として見てしまっていた気がして、そんな自分を恥じた。猫に対してそうした偏見を持つということは、きっと人間に対しても、そういう偏見を持って接しているに違いないのだ。

小さな黒猫に、大きな反省を促された、昼下がりのひとときであった。

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