お笑いの極意

1、芸人が面白いことを言う。
2、それを聞いたお客さんが笑う。

普通のお笑いの風景である。では、この順番が逆だったらどうだろう。

1、お客さんが笑う。
2、それを見た芸人が面白いことを言う。

……それはおかしい、と思うだろう。だがお笑いの極意は、実はこの「逆転した世界」にある。お笑い芸人の脳内では、この逆転現象が常に発生しているのだ。

常にお客さんを笑わせる芸人には、面白いことを言う前から、すでにお客さんの「笑い声」が聞こえている。そしてそのイメージされた笑い声から逆算して、「お客さんがこんなに笑ってるのは、俺が一体なにを言ったからなのか?」という発想が生まれているのである。それは時に無意識に行われているので、本人すらそのことに気づいていないことも多い。

つまりお笑い芸人がやっていることは、「お客さんの笑い」と、「自分の発言(行為)」との間の、「穴埋め作業」にほかならないのだ。だから、はなからお客さんの笑い声がイメージできない芸人に、「笑いの神」は降りてこない。

もっと正確に言おう。「笑いの神」は、「お笑い芸人」に降りてくるのではない。「お笑い芸人」と「お客さん」との「間(あいだ)」に降りてくるのだ。

このことをつかめるか否かが、お笑い芸人として頭角を現わすかどうかの重要な分岐点になるのである。……ほんまかいな。


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