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それはもう無理な相談だ

我が家では、「月」のウンチクが書かれた「月暦カレンダー」というのを使っているのだが、たまに驚くような事実を教わることがある。

たとえば、「月見そば」に関する次の文章である。

【月見そば】
「美しい月夜の風景が描かれた一杯。卵の黄身を月に見立て、月にかかる雲を白身、夜空を海苔、月の光に浮かぶ山をかまぼこ、すすきを三つ葉などで表す。日常の食べ物に月を取り込んだ、先人の粋な遊び心だ」

僕はこれを読んで大きなショックを受けてしまった。

月見そばは、てっきり「蕎麦に黄身さえ浮かべれば完成するもの」だと思っていた。ほかの具材も特に意味などなく、オマケ程度のものだろう、と。

蕎麦屋のメニューでもけっこう安いほうだし、そこに親しみを感じていたのだ。それがまさか、こんなに手の込んだ料理だったなんて……。

これまで気安く付き合っていた親友に、突然、

「今まで黙ってたけど、実は俺、貴族の生まれでさ……」

と告白されて、急によそよそしい関係になったような感じだ。

「いや、でも気にせずに、今までどおり付き合ってくれよ!」と言われても、それはもう無理な相談だ。

今まで気安く注文して、ごめん。

さようなら、月見そば。
ありがとう、月見そば。

ずっと黄身の蕎麦に、いたかった。

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