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キレイな手

定期的に開催している、ある仲間の集いがある。その日はメンバーのひとりの自宅に集まり、一緒に夕食を作ることになった。

キッチンでは、メンバーの女性が鶏肉の料理を作っており、僕はそのお手伝いをしていた。するとふいに、彼女が僕にこう言ったのである。

「杉原さん、手キレイだよね」

正直ドキッとした。

「手がキレイ」と言われたのなんて、人生で初めてのことだった。そしてそれが、こんなにうれしいことだなんて……。

ちょっと、女性の気持ちがわかったような気がした。

僕は照れつつ、「いや、そうかな? 指も短いし、そうでもないと思うけど……」と、手をさすりながらモジモジしていると、彼女は作業をしながらこう言った。

「手キレイだったら、そのボウルに入ってる鶏肉、揉んどいてほしいんだけど」

「え?」

そう。「手キレイだよね」というのは、「手が美しいね」という意味ではなく、「手は汚れてないよね」という意味だったのだ。ボウルの中で調味料に漬けられた鶏肉を、手で揉むために。

僕が問われていたキレイさとは、「ビューティフル」ではなく、「クリーン」のほうだったのだ。

こんな恥ずかしい思いをしたのは久しぶりだ。

だが「手がキレイ」と言われるうれしさを知ることはできた。僕もこれからは、人の手のキレイさを積極的にホメていきたいと思う。

もちろん「クリーン」ではなく、「ビューティフル」のほうで。

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