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小学校6学年で「仕事のトリセツ」の授業を実施しました

『きみがつくる きみがみつける 社会のトリセツ』(以下きみトリ)の著者の一人、舟之川聖子です。出版後に「きみトリプロジェクト」として対話の場づくりの活動しています。
https://kimitori.mystrikingly.com/

本業では、鑑賞対話ファシリテーターという仕事をしています。これは、映画や舞台や本などの作品を観た人同士が、感想を話し合うための場を企画し、当日の場を進行する仕事で、私が独自につくった職業です。
https://seikofunanokawa.com/


2022年2月、足立区立東栗原小学校にて、「仕事のトリセツ」の授業を行いました。6学年の子どもたちに、生きること、働くことについて視野を広げる機会を提供する「キャリア教育」の一環です。

先生方と相談して、この日のために書き下ろした「仕事のトリセツ」を自分で朗読し、その後子どもたち同士で感想を話してもらったり、先生方も交えて全体で対話をする、45分の授業を作り、1コマずつ2クラスで行いました。

子どもたちは、「仕事にはいろんな面がある」「人それぞれの道がある」「自分なりのタイミングがある」「仕事も考えもどんどん変わってもいいと思えて気持ちが楽になった」など、さまざまな気づきを伝えてくれました。

以下はレポート詳細です。

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実施の経緯

今回のお話をいただいたのは、同校の低学年を担当している先生から。「『きみトリ』の内容がとてもよかったので、自分の勤務校の高学年向けにぜひ授業をしてもらえないか」とお招きくださいました。6年生の先生方への提案をし、打ち合わせから当日まで立ち会い、きめ細かく裏方としてサポートに動いておられました。学校の中と外をつなぎたいコーディネーター志向の先生と、外部人材としていろんな現場を動いて回りたい私との出会いでできたお仕事でした。

企画意図

6学年では、これまで自分の性格や好きや得意なことを元に、将来つきたい職業を選ぶ授業は行ったことがあるとのこと。今回は、舟之川の仕事を紹介しながら、「仕事は変わることもある」「仕事はつくれる」といった、柔軟で新しい視点を子どもたちに提供してほしいと先生方からリクエストがありました。

私からは、
・卒業を控え、次のフィールドに移行する時期にある子どもたちに、一人の大人との接触を通じて、広い社会とのつながりを感じてもらいたい。
・親でも先生でも偉い人でもない、リアルな大人の姿を子どもたちに見てもらい、同じ社会に生きる人間同士の対等な関係をつくりたい。
という思いがあることをお伝えしました。

『きみトリ』で扱ったテーマの中から選んでもらったところ、「友だち」か「仕事」が成長段階としても、子どもたちの関心としても合うのではということになり、やり取りをしながら最終的に「仕事」に決まりました。

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基本の流れ

『きみトリ』にも「仕事のトリセツ」は収録されていますが、他の著者が書いた文章のため、同じタイトルで書き下ろすことにしました。私の個人的な経験をもとにした主観的な部分と、社会の構造を客観的に伝える部分とを織り交ぜた、約3,000字、朗読して8分ほどの文章になりました。

私のパートは「対話のための素材」という位置付けにして、なるべく子どもたちが自分の思いや考えを話す時間をとれるように、以下のように基本の流れを組み立てていきました。

1. 舟之川の紹介
2. 舟之川の朗読
3. 気になったテーマ出し
4. テーマごとに数人で集まって対話&質問出し
5. 舟之川に質問
6. ふりかえり

いきなり全体の中で意見を言うよりも、まずは少人数で話し合い、その後全体で共有するスタイルが、慣れていて緊張も少ないだろうとのことでした。メインの進行は私が行い、サポートを担任の先生にお願いしました。

1時間目・1組

実際に子どもたちと会ってみて、予定していた流れから少し変更したほうがよさそうに思ったので、朗読のあとは、周りの2〜3人で「今の朗読を聞いてどう思ったか」「ここがわからなかった」などを話してもらい、その後全体で感想や質問を共有しました。

・仕事をすることでもらえる「うれしいお返し」は向こうからやってくるんですか? こちらから取りにいくんですか?
・「鑑賞対話ファシリテーター」って何かわからない。
・「17歳のときから約30年いろんな仕事をしてきた」と書いてありますが、どんな仕事をしてきたんですか?
・いろんな仕事をしてきて学んだことって何ですか?
・どんな趣味でも仕事にできますか?
・「鑑賞対話ファシリテーターの仕事にもコロナの影響ってありますか?
・仕事はつらいと思ってたけど、ちょっと楽になりました。

書いてあった内容について、あるいは私という人間についてもっと知りたいという気持ちを表してくれました。

それはどんな仕事なのか、どんなふうに考えて仕事をしてきたのか、自分が仕事をつくると考えてみたらどうなるだろうか、今自分の中に何が生まれているのだろうか……など次々とインスピレーションが湧いてくるようでした。私もやり取りをしながら、一人ひとりがどんな人なのかを知ることができました。

そこからまた周りの2〜3人で「今の話を聞いてどう思った」かを話してもらい、最後にふりかえりシートに感想を書いて提出してもらいました。今浮かんでいる思い、わかったこと、違和感、聞けなかった質問などなんでもOKと声をかけました。

2時間目・2組

2組では基本の流れをまた少しアレンジして進めました。

朗読のあと、近くの2〜3人で「今の話に含まれていると思うテーマ」を出してもらい、黒板に挙げていきました。こちらのクラスでは、日頃から哲学対話を取り入れているということもあり、仕事をすることや働くことについての本質に迫るテーマが出てきました。

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やりがい
働く意味
新しい仕事をつくるってどういうこと?
お金=たのしさ
自分らしい仕事のみつけ方
その他

テーマを眺めながら思うことをシェアしてもらいました。
・〈やりがい〉:楽しいほうがいい。自分がやりたいことがいっぱいやれたらいいな。
・〈働く意味〉:将来働く。なんで働くのかなぁ。働くとどんないいことがあるのかな。
・「仕事は生きるために必要なこと」と書いてあったけど、なんで生きなきゃいけないのか。
・〈自分らしい仕事の見つけ方〉:自分らしいってどういうことか。

それぞれに応答しながら、担任の先生、見学に来られていた副校長先生や図書の先生にも「どう思いますか?」と振り、それぞれの考えをシェアしてもらいました。

・独立して仕事するって自分の中で難しいことだと思ってたけど、実際はどんな感じなんですか? 
という質問をきっかけに、後半は「働き方の選択肢」「具体的な実現の仕方」の話題が続きました。独立して仕事をするという道や、フリーランス(自営業)という働き方について、初めて聞いたという人が多かったようです。

ひとしきり対話が続いたところで、2〜3人で「今の話を聞いてどう思ったか」を話し合ってもらい、その後「どんな話が出たか」や「聞いてみたいこと」をシェアしてもらいました。

・フリーランスの人はどこからお金をもらってるんですか?
・わたしは看護師を目指しています。一つの仕事をしながら、看護師の勉強をしていくなど、両立する方法もあるのかもしれないと思いました。
・人それぞれやりたい仕事やなりたい職業があって、すごいと思った。
・フリーランスという働き方は収入は安定しないけど、楽しいと思えるのはよいと思った。
などの感想が出ました。働くことや生きることについての本質的なことももっと自分なりに考えたい、一方で、これから自分が大人に向かっていることを自覚していて、社会がどんな仕組みで動いているのかを具体的に知りたい、という気持ちを感じました。

最後にふりかえりシートに感想を書いてもらって、終了となりました。

子どもたちの感想から

ふりかえりシートから一部紹介します。

・私は今してみたい職業がなく、周りの人はあるのにと少しあせっていたけれど、これからの人生でたくさんのことが学べるとわかったので、安心しました。
・ぼくの頭の中では、仕事といえば残業しかしていないイメージだったけど、この話をきいて、枝分かれしていくようにたくさんの仕事があるんだなと気付きました。
・働くことはたのしさもあることがわかってよかった。働くことはたいへんだと思っていたから。
・「働く」にはたくさんの種類があることがわかりました。
・自分がやりたい職業を仕事にできるのは知っていたけれど、どんなメリットがあるかは知らなかったから、いろんな話を聞けてよかった。仕事に対しての考えや選択肢が増えた。
・仕事のトリセツで「今は考えたくないもアリです」という文を見て、世界が広くなった気がした。
・自分に合ったことが見つけられなかったら、自分が自分に合ったことをつくる、ということをしてもいいんだと思った。
・お金が安定しないのに働けるのはなぜなのか。
・聖子さんの話や先生たちの話を聞いて、働くのは楽しいと思っていると聞いたので、私も将来楽しく働けたらいいなと思いました。生きる意味について考えるときに、生きているからこそ、「楽しい」「楽しむ」という感覚がするんだなと思いました。
・なんだか深すぎてわからなかったけれど半分ぐらいわかった。時がきたらまた思い出そうと思った。
・コロナ=悪のイメージだったので、コロナによって新たな需要が生まれていることを知り、その時その時の人々の暮らしでありがたいものが仕事になってるのではないかなと思いました。

皆さんの感想からは、選択、多様性、個別性、理解、喜び、安心、希望の実感があふれていました。

感想を聞かせてもらえて私がとてもうれしかったのと、「舟之川さんが、学んだことをやっちゃってるのがすごいと思った。どうしたら動けますか」という質問ももらったたので、後日お手紙を書き、先生から全員に渡してもらいました。

先生方からも、「子どもたちの眼差しが変わった。選択はいろいろある、人それぞれでいいと知ったことは大きかったのだと思う」「自分とは全く違う発想や選択、人生に触れられたのは、自分にとってもよかった」と感想をいただきました。

ふりかえり

授業全体を通して、一人ひとりがこの場を全身で受け止めていたこと、一人ひとりの内側でエネルギーが渦巻いていたことを強く感じました。そして私に対して、とても真摯に関わってくれたことをありがたく思いました。

6年生、11歳から12歳の人たちは、私が想像している以上に、今の時代の空気や社会からのプレッシャーをひしひしと感じているようでした。そんなかれらに、保護者でも先生でもない大人からも、「一人ひとりが尊い」という気持ちが一瞬でも伝えられていたならよいのですが。

この授業を受けて、仕事や「働く」がテーマの本を図書の先生が選んで、学級に持ってきてくださったそうです。このような連携、とてもいいですね。

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「10代の人たちに『きみトリ』を届けたい!」とこの1年余り活動してきましたが、自分が書いたものを自分の声で直接届けられるという、とても貴重な機会となりました。また、私が校内の先生ではないからこそできることを携えて、学校という日常生活の場に入っていく意義も、今回強く感じました。今後もこのような「外部人材」として、学びの場に関わっていきたいです。

新型コロナウイルス感染症が蔓延する時期にもかかわらず、なんとか対面でできたことも、非常にありがたかったです。一つ心残りは、オンラインで参加していた数人の子どもたちを十分にケアできなかったことでした。まだまだ改善の余地があります。

東栗原小学校6年生の皆さん、お世話になった先生方、ありがとうございました。またどこかでお会いできますように。


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きみトリの授業にご興味のある方へ

きみトリプロジェクトでは、学びの場を学校、学童、地域の居場所、コミュニティなどで開催しています。

実施例:
5, 6年生向け思春期プログラム(ラーンネット・グローバルスクール)
みつけよう!いまのわたしが踏み出せる一歩 ~きみトリプロジェクトから学ぶ、対話と場~(シブヤ大学)

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