勝負の土俵が変わってきた。
紅白出場歌手の分析をしたこの記事。
今回の初出場歌手、落選歌手を、ビルボードジャパンのチャートという観点から見ると至極妥当なのではないか、と結論づけているのですが、
とても興味深い記事でした。
かつて、レコ大や紅白を、48GやLDH系が席巻した時期、
音楽チャート(当時はオリコンチャートが絶対的な指標でしたね)も、彼らが上位を独占していたし、
ジャニーズまで含めるとトップ10独占、なんてこともざらにあって、
それは「圧倒的なCD売上」という「数の論理」によるものだった。
実際、彼らのCDは、毎回出すたびに数十万枚、場合によっては100万枚以上売れていて、
他にそれだけの売上を叩き出せるアーティストは実際いなかったから、
「本当の人気を反映していない」とほうぼうから言われつつも、
彼らのチャート上位は「正義」だった。
ただ、今のチャート(ビルボートチャート)は、
その構成手法が多様化しているのはもちろんですが、
その「数の論理」の桁がいよいよ変わってきているなあ、とも思っていて。
ストリーミングやTikTokの再生回数なんて、「億」いくことが当たり前。
今回初出場のVaundyさんは、7曲がストリーミング再生1億回突破しているそうなのですが、
なんとこの記録を上回るアーティストが既に6組もいるそう(髭男、YOASOBI、BTS、あいみょん、back number、Ado)。
こうなると、1曲2曲が億再生いったとしてもまだ勝負にもならないし、
そもそもそこにすら至らないのでは、もはや勝負の土俵に乗ることすら叶わない。
今は「自分で選曲しない」、
アプリにおすすめされるままに聞いている人も多くいるわけですが、
そのとき流行っているものは当然レコメンドの上位にくるから、
何も考えずにアプリのおすすめに従っているだけで、おそらくこれらのチャート上位アーティストは自動的に再生されてくることでしょう。
「知っているし好きだしよく聞くけど、誰が歌っているかはわからない」という「ヒット曲」が出てくるのは、そういう今の時代ならではですよね。
かくして、強いものが勝手にどんどん強くなっていき、
数十万、数百万というストリーミングの再生回数が積み上げられていく。
ましてやTikTokとかだと、曲の一部が切り抜かれて使われるのが当たり前だから、その「数」が積み上げられていく速度はさらに早くなるわけで。
これもまた、新しい「数の論理」といえるのかもしれません。
フィジカルのCDは、たとえ何百回聞かれようと、チャート上では「1枚」。
億単位で売れることなんてありえないから、
極端な話でいうと、
1枚のCDを買って、熱心に、大事にたくさん聞く人が多いアーティストと、
Spotifyの無料プランで、アプリにおすすめされるまま、なんとなく曲に接している人が多いアーティストだと、
「実際に聞かれた回数」が同じだったとしても、
後者のほうがチャート上のインパクトは大きくなる。
とはいえ、やっぱり今のは極端な話で、
「フィジカルのCDを1枚買って熱心に何百回も聞くファン」というのは、現実にはかなり少なくなっているでしょうから、
こういう集計方法も妥当なのかもしれません。
音楽の「聞かれ方」「広がり方」の変化は着実に起きているし、
その時流にちゃんと乗っかっているアーティストのほうが、「より売れている」「より聞かれている」アーティスト、ということになる。
指標が変わればチャート順位も当然変わるので、
あくまで「その指標が重視している数値」の中での順位である、
チャートというひとつの「切り取られた世界」の上での正解、という話だという前提を忘れてはいけないけれど、
この「勝負の土俵がそもそも変化している」というのは、
世の中の事象を見る目線としては、今回のことに限らずとも、きっと大事なことなのだろうなあと思います。
もちろん、紅白に出ることだけが正義ではなくて、
紅白に出なくたってたくさんの人を幸せにしているアーティストが本当にたくさんいるのだけれど、
それこそヤバTみたいに、「紅白出場」をひとつの大きな目標に掲げている人たちもいて。
でも、「紅白出場」というひとつの「ステータス」を得ようと思ったら、
彼らの依る「土俵」の形を知って、ちゃんとその土俵の上で成果を出す、
「ヒットの構造」を理解して、そこに沿った「数字」をつくる、ということは、ひとつの「戦術論」としては決定的に重要なのだろうと思います。
紅白の選考委員さんも「なんとなく」では選んでないわけですから、
「なんとなく人気」ではなく「この指標でちゃんと人気」という根拠がないと選ばれないよ、というのは、他のビジネスにも共通する話ですね…。
秋元康さんがプロデュースするグループ(48G、坂道シリーズ)が12年ぶりにレコ大ノミネートから落選、
紅白でもついに乃木坂・日向坂の2グループになってしまって、
「ひとつの時代の終焉」みたいなことが言われてますが、
いくら「ヒットの寵児」といえども、「ヒットの構造」そのものまでを動かすことはできない。
決められた土俵の上で一番になるのが上手でも、
さすがに土俵そのものが根本的に変えられてしまうと、そこに対応するのは容易ではない、というのは興味深いなあ、と思います。
とはいえ、この数十年間「時流に乗り続けて」きた秋元さんですから、
きっと今の時代に合った「次の一手」もそのうち出してくるのでしょうが。
(ただ、その担い手はAKBや坂道ではないのかもしれませんが)
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