『流浪の月』を読んで

本屋大賞を受賞した『流浪の月』を読んでみました。内容も何も知らずにタイトルだけ見てファンタジーなのかなとか考えていましたが、なるほど、流浪の月、そういうことかと最後には納得することができました。

まだ読んでない人のネタバレになりたくないのでできる限り内容のことはここでは書かずあくまで感じたことを述べていければと思います。

物語の全体の印象としては、白い、無機質、それでいてどこかあったかいような矛盾しそうで矛盾しない感覚に包まれました。それは主人公の胸の内に秘めたものを表に出さない性格からか。激情の持主でありながら静かで他者に対して壁を作っている、心を固いからで覆っているそんな印象からでしょうか。しかし、誰にも理解できない深い深い愛を抱いている、そんなところからの暖かさ、ぬくもりを感じたのかもしれません。

男女間での愛とは色欲や恋愛、慕情といったイメージをよく抱く。しかしそれだけではないのであることは、もはや誰もが理解、もしくはそのよう状況を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。しかし、それでいて当事者になってみないといささか理解に苦しむこともあるのかもしれないですが…。友情とも愛情ともつかない不思議な感情。ただ言葉として表現するのが難しいだけで、不思議という表現もあまり適切でないように思います。なぜなら、理解でき、自分の身にも起こりうることだという直感があるからです。

私個人の性格として人に依存しやすい部分があるので、この物語を読んだときにそれは依存ではないのかと感じました。もしくは傷のなめあい。世間という枠組みから外されてしまった二人が出会い、お互いの傷を埋めあうように寄り添う。しかし、よくよく読んでみるとはじめこそそのように寄り添っていた二人だったかもしれないが、そのうちに恋愛とはまた別の、親子とも兄弟とも恋人、友人。どの言葉でも表現しがたい関係を気づいていき、それがお互いにとって計り知れない安心感をもたらすものだと読んでいて、少しうらやましくなるような関係でした。そのような関係を気づくことのできる相手がいれば、心の安寧を知ることができるのではないだろうかと。心を病んでいるわけではないが時折心に冷たい風が吹き込むことを近々よく感じていたのでそのように感じました。

白く、清く、まっすぐで、表面上はいびつかもしれないが、その芯は何より固く太く強く。そんな印象を受けた物語でした。

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